Good day ! 4【書籍化】
「ふあー、なんかオブザーバーシートって窮屈だな。藤崎ちゃん、今どの辺?」
退屈になったのか、しばらくはおとなしかった野中がまた話しかけてきた。
「離陸して約80分。東京FIR(Flight Information Region)の洋上境界付近です」
コックピットには、まだギリギリ東京コントロールの無線が入ってきている。
キャビンでは、乗客へのサービスが始まっているようだった。
「腹減ったなー。俺、先にミールもらってもいいか?」
「はい、もちろん」
恵真が答えた時だった。
ふいにキャビンからのインターホンが鳴る。
「はい、コックピット藤崎です」
『L1佐々木です。キャビン中央で、うっすらと白い煙が漂っています。お客様にはまだ気づかれていないようですが、通気口からじわっと流れているように感じます』
コックピット内の空気が瞬時に凍りつく。
煙を自動検知するスモークディテクターの警報はない。
恵真は伊沢と目配せし、システムパネルに目を移しながら佐々木に尋ねた。
「スモークインディケーターはどうなっていますか?」
『ギャレー、ラバトリーともに変化はありません。視認出来る火も今のところありません。ただ、CA全員一致で、何かおかしいと感じています』
警報パネルにも異常表示はない。
「警報なし。与圧も正常、電気系統も異常なし。全てノーマルです」
だけど、と恵真は心の中で考える。
(警報が鳴らないのは、煙の濃度がまだスレッショルド(しきい値)を下回っているからであって、確実に煙が広がっているのだとしたら?)
火災や煙の警報が鳴れば、即座に緊急事態のプロシージャーに移れる。
だが、システム上は全て問題がないこの状況では、どう判断すべきか。
「何か発火源の心当たりがないか、リチウムバッテリー類も確認してもらいます」
再びインターホンで佐々木を呼び出した。
『お客様の頭上の棚を1つずつ開けてチェックしていますが、まだ何も。相変わらず白い煙が薄く漂っていますが、火は見えません。少し焦げるような臭いもします』
恵真は瞬時に考えを巡らせる。
(火元不明、システム異常なし。でも確実に煙は出ている。一番疑わしいのは、手荷物の中のリチウムイオンバッテリーの発火。それさえ防火バッグに入れられれば問題はない。だけど、もし違ったら? シップの不具合だとしたら? しかも今はAPUは使えない。いざという時の電源冗長が効かない)
たとえ火元を特定出来ても、APUがないため、機内の換気や電源制御に制限があった。
一刻も早く安全高度のフライトレベル100まで下げる必要がある。
迷っている時間はない。
恵真は少し視線を後ろにそらして、大和たちの様子をうかがった。
野中が身を乗り出し、いつでも伊沢と代わろうとしているのが分かる。
大和は……?
恵真はじっと大和と視線を合わせた。
大和も真剣な表情で恵真を見つめると、小さく頷く。
恵真もしっかりと頷き返した。
退屈になったのか、しばらくはおとなしかった野中がまた話しかけてきた。
「離陸して約80分。東京FIR(Flight Information Region)の洋上境界付近です」
コックピットには、まだギリギリ東京コントロールの無線が入ってきている。
キャビンでは、乗客へのサービスが始まっているようだった。
「腹減ったなー。俺、先にミールもらってもいいか?」
「はい、もちろん」
恵真が答えた時だった。
ふいにキャビンからのインターホンが鳴る。
「はい、コックピット藤崎です」
『L1佐々木です。キャビン中央で、うっすらと白い煙が漂っています。お客様にはまだ気づかれていないようですが、通気口からじわっと流れているように感じます』
コックピット内の空気が瞬時に凍りつく。
煙を自動検知するスモークディテクターの警報はない。
恵真は伊沢と目配せし、システムパネルに目を移しながら佐々木に尋ねた。
「スモークインディケーターはどうなっていますか?」
『ギャレー、ラバトリーともに変化はありません。視認出来る火も今のところありません。ただ、CA全員一致で、何かおかしいと感じています』
警報パネルにも異常表示はない。
「警報なし。与圧も正常、電気系統も異常なし。全てノーマルです」
だけど、と恵真は心の中で考える。
(警報が鳴らないのは、煙の濃度がまだスレッショルド(しきい値)を下回っているからであって、確実に煙が広がっているのだとしたら?)
火災や煙の警報が鳴れば、即座に緊急事態のプロシージャーに移れる。
だが、システム上は全て問題がないこの状況では、どう判断すべきか。
「何か発火源の心当たりがないか、リチウムバッテリー類も確認してもらいます」
再びインターホンで佐々木を呼び出した。
『お客様の頭上の棚を1つずつ開けてチェックしていますが、まだ何も。相変わらず白い煙が薄く漂っていますが、火は見えません。少し焦げるような臭いもします』
恵真は瞬時に考えを巡らせる。
(火元不明、システム異常なし。でも確実に煙は出ている。一番疑わしいのは、手荷物の中のリチウムイオンバッテリーの発火。それさえ防火バッグに入れられれば問題はない。だけど、もし違ったら? シップの不具合だとしたら? しかも今はAPUは使えない。いざという時の電源冗長が効かない)
たとえ火元を特定出来ても、APUがないため、機内の換気や電源制御に制限があった。
一刻も早く安全高度のフライトレベル100まで下げる必要がある。
迷っている時間はない。
恵真は少し視線を後ろにそらして、大和たちの様子をうかがった。
野中が身を乗り出し、いつでも伊沢と代わろうとしているのが分かる。
大和は……?
恵真はじっと大和と視線を合わせた。
大和も真剣な表情で恵真を見つめると、小さく頷く。
恵真もしっかりと頷き返した。