Good day ! 4【書籍化】
やがて東京アプローチへハンドオフされた。

「Tokyo Approach, JW105. FL100. Cabin smoke identified as isolated device. Request priority landing at Haneda」

すぐさま返答が来る。

『JW105, Tokyo Approach. Roger, cleared direct ARLON , expect vectors for ILS approach. Runway 34Left.』
「Cleared direct ARLON, expect vectors for ILS approach. Runway 34Left. JW105」

まもなくベクターが入り、ARLONを通過する。

「ギアダウン、フラップ20。ILSキャプチャー」

羽田の誘導灯が遠くに見え始め、滑走路34Lへのファイナルアプローチに入った。

『JW 105. Runway 34Left, cleared to land. Wind 020 at 6』
「Runway 34Left, cleared to land. JW105.」

通常のランディング。
だが滑走路の手前に、回転灯を灯した消防車が3台待機していた。

「タッチダウン」

ランディングギアが滑走路を捉えると、スラストリバーサーで一気に減速させる。

ゆっくりと誘導路に入り、地上管制へハンドオフされた。

『JW105. Taxi to Spot 74 via Bravo 6. Emergency vehicles will follow』
「Spot 74 via Bravo 6, JW105」

滑走路を離れた機体の横に、消防車がピタリと寄り添う。
サイドウィンドウ越しに、隊員の一人がこちらに親指を立てた。

「放水の必要はないみたいだな。外部温度だけチェックしてもらおう」
「了解です」

管制官からも連絡が入る。

『JW105, Tokyo Ground. Rescue reports no external fire, no spray needed. You’re all clear.』
「Roger. Thank you for your support, JW105」

無事にスポットにつくと、消防隊とやり取りした整備士から連絡が入った。

『火災なし、外部温度も異常なしとのことです』
「了解しました。通常通りの降機をお願いします」

パーキングブレーキをセットし、エンジンを停止。
ブロックインすると、ようやく伊沢が機内アナウンスを入れた。

「機長の伊沢です。皆様、本日は大変ご迷惑とご心配をおかけしました。無事に羽田空港に着陸し、機内に火災はなく、安全が確認されました。当機は羽田空港を離陸して約80分後に、客室乗務員よりわずかな煙が発生しているとの報告を受け、安全高度までの降下を始めました。お手荷物のヘアアイロンのリチウムイオンバッテリーからの発火と特定し、消火の上で隔離を完了しましたが、お客様の安全を最優先し、羽田空港へ引き返してまいりました。大幅なスケジュール変更を余儀なくしてしまい、大変申し訳ありません。ご理解いただけますと幸いです。尚、このあとの宿泊や振り替え輸送に関しましては、地上係員が対応いたします。重ね重ね、この度は大変ご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした」

パッセンジャーボーディングブリッジが取り付けられ、乗客が降機を始める。
佐々木たちが「ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」としきりに謝罪する声がドア越しに聞こえてきた。

最後に整備士がコックピットにやって来る。

「お疲れ様です。へアアイロンのあった詳しい場所は、チーフパーサーから聞きました。機外の温度、機内残留煙、チェック入れておきます」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

恵真たちは4人で一度コックピットを出て佐々木に声をかけ、現場に案内してもらう。

「こちらです」

客席の上の棚の1つを覗き込むと、茶色い焦げ跡があった。

「お客様によると、手荷物検査場を通る前にヘアアイロンはフライトモードに切り替えていたそうです。ですが、ゲートで搭乗を待つ間に化粧室で使用し、搭乗アナウンスが聞こえてきて慌ててバッグにしまったそうです。恐らくその時、きちんとスイッチを切っていなかったのではないかと」

なるほど、と恵真たちは頷く。

「いずれにしろ、お客様がどなたも怪我をされなくてよかったです。キャプテンも恵真さんも、お疲れ様でした」
「こちらこそ。佐々木さんがチーフで本当によかったです。キャビンを守っていただき、ありがとうございました」

そこに会社の運航支援者が近づいて来た。

「お疲れ様でした。皆さん、オフィスでヒアリングの時間をいただけますか?」
「承知しました」

コックピットに戻り、4人それぞれフライトバッグを手にする。
野中と伊沢に続き、恵真もコックピットを出ようとした時だった。

「恵真」

呼ばれて振り返ると、ふいに大和に腕を引かれ、そのままギュッと両腕で抱きしめられる。

「よくやった、恵真。よくぞ無事で……。本当によかった」

耳元でささやく大和の声は、感極まったようにかすれていた。

「大和さん……」

張り詰めていた気持ちがぷつりと切れたかのように、恵真の目から涙が溢れる。

「私、とにかく必死で……。判断は、あれでよかったんでしょうか?」
「ああ。恵真は乗員乗客全員の命を守りきったんだ。さすがは俺の恵真だ。えらかったな」
「はい。ありがとうございます、大和さん」

ポロポロと涙をこぼす恵真を、大和は優しく抱きしめていた。
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