Good day ! 4【書籍化】
「それでは、機長訓練中の伊沢さん。降下の判断に至った経緯を、順を追って説明してください」
オフィスの会議室に集められ、事後聴取として運行本部安全監査室の室長が切り出した。
伊沢はゆっくりと記憶をたどるように話し始める。
「はい。羽田空港を離陸して約80分後、東京FIRの洋上境界付近で、チーフパーサーより『キャビンでわずかな煙を確認』との報告を受けました。すぐにコックピット内の警報装置を確認しましたが異常表示はなく、システムはすべて正常でした」
「ではなぜ緊急降下を?」
「客室乗務員全員が煙を認識していたこと、それから火元も不明だったことが一番の理由です。加えて今回のフライトでは、APUが使えない状態でMEL適用で出発していました。その分、冗長性が下がっていたことも考慮しました」
「なるほど。緊急降下を始めたものの、スピードを敢えて抑えた判断について、藤崎副操縦士はいかがですか?」
話を振られて、恵真は居住まいを正す。
「はい。私は伊沢キャプテンの指示に全て同意しました。緊急降下とは言えシステムは全てノーマルでしたし、お客様にGの負荷をかけることは避ける余地があると判断しました。また、煙の原因が不明であれば、シップの電気系統の不具合も完全に否定出来ず、高速で降りることで更なる故障を招く懸念もあったからです」
「分かりました」
最後に野中と大和に質問が及ぶ。
「野中キャプテンは、コックピットにいてどう感じましたか?」
「私はいつでも交代する心づもりでいました。ですがこの二人は、まったくブレることなく判断も的確、私が口を挟む必要はありませんでした」
「そうですか。では佐倉キャプテンは?」
大和はゆっくりと顔を上げて言葉を選んだ。
「今回のケースは、煙が微量だったことと感知器から火元が離れていたこともあり、警報が一切鳴りませんでした。マニュアルやプロシージャーに移るタイミングが非常に難しく、その場のパイロットに判断が委ねられます。明確な正解はありません。ですが」
一度言葉を止めてから、大和はきっぱりと言い切った。
「あの時、私も彼らと全く同じ判断をしました」
シン……と静けさが広がる。
「そうでしたか。大変よく分かりました。皆さん、今回はお疲れ様でした。空の安全と多くの命を守ってくださって、ありがとうございました」
室長は、深々と頭を下げた。
オフィスの会議室に集められ、事後聴取として運行本部安全監査室の室長が切り出した。
伊沢はゆっくりと記憶をたどるように話し始める。
「はい。羽田空港を離陸して約80分後、東京FIRの洋上境界付近で、チーフパーサーより『キャビンでわずかな煙を確認』との報告を受けました。すぐにコックピット内の警報装置を確認しましたが異常表示はなく、システムはすべて正常でした」
「ではなぜ緊急降下を?」
「客室乗務員全員が煙を認識していたこと、それから火元も不明だったことが一番の理由です。加えて今回のフライトでは、APUが使えない状態でMEL適用で出発していました。その分、冗長性が下がっていたことも考慮しました」
「なるほど。緊急降下を始めたものの、スピードを敢えて抑えた判断について、藤崎副操縦士はいかがですか?」
話を振られて、恵真は居住まいを正す。
「はい。私は伊沢キャプテンの指示に全て同意しました。緊急降下とは言えシステムは全てノーマルでしたし、お客様にGの負荷をかけることは避ける余地があると判断しました。また、煙の原因が不明であれば、シップの電気系統の不具合も完全に否定出来ず、高速で降りることで更なる故障を招く懸念もあったからです」
「分かりました」
最後に野中と大和に質問が及ぶ。
「野中キャプテンは、コックピットにいてどう感じましたか?」
「私はいつでも交代する心づもりでいました。ですがこの二人は、まったくブレることなく判断も的確、私が口を挟む必要はありませんでした」
「そうですか。では佐倉キャプテンは?」
大和はゆっくりと顔を上げて言葉を選んだ。
「今回のケースは、煙が微量だったことと感知器から火元が離れていたこともあり、警報が一切鳴りませんでした。マニュアルやプロシージャーに移るタイミングが非常に難しく、その場のパイロットに判断が委ねられます。明確な正解はありません。ですが」
一度言葉を止めてから、大和はきっぱりと言い切った。
「あの時、私も彼らと全く同じ判断をしました」
シン……と静けさが広がる。
「そうでしたか。大変よく分かりました。皆さん、今回はお疲れ様でした。空の安全と多くの命を守ってくださって、ありがとうございました」
室長は、深々と頭を下げた。