Good day ! 4【書籍化】
「なんだか、自分の受験の時よりも緊張します」

受験勉強に勤しむ二人に夜食を作りながら、恵真は大和に笑いかけた。

「確かにな。それに俺、あの二人に比べたら全然勉強してなかった」
「ふふっ、私もです。よく受かったなあ」

二人で自分が20歳の頃を懐かしむ。

「そう言えば、恵真。航大の谷口教官って知ってる?」

え?と、恵真はキッチンから大和を振り返った。

「谷口教官ですか? 帯広で私の担当だった方です。ミス・ハプニングって呼ばれてた私を励ましてくれた……」

厳しくも温かかった教官の人柄を思い出す。
「間違っても自分を不運だと思うな」
教官のその言葉を、恵真は今でも忘れてはいない。

「そうだったのか。実は俺も担当してもらったんだ。もう退任されてるけど、会社を通じて連絡が来た。お子さんは今年受験するの? って」
「ええ!? そうなの? 谷口教官、翼と舞が今年20歳ってご存知なのね」
「ああ。恵真が機長に昇格したのもご存知だった。おめでとうと伝えてくれって。どうやら会社のSNSをチェックされているらしい。フルムーンフライトに夫婦で乗りたいとおっしゃっていた」

ひえー!と恵真は両手で頬を押さえた。

「谷口教官を乗せて飛ぶなんて、緊張します」
「じゃあ、乗せてないと思い込んで飛んだら?」
「でも乗ってるんですよね?」
「そうだな。教官だけでなく、部長も、両親も、翼も舞も。あと恵真のファンのお客様も」

ふらーっと恵真の意識が遠のく。

「もう、そこまで来たら何でも来いです」
「はははっ、確かに。でも楽しみだよな。俺たちがお世話になった人みんなに恩返しをする機会をもらえるんだ。感謝の気持ちを込めて飛ぼう」
「はい!」

恵真の笑顔に大和も頷き返す。

そのあとすぐに、フルムーンフライトは翌年の3月1日と決まった。
日本ウイング航空 186便 羽田発ホノルル行き。
ハネムーンフライトやフライトデビューと同じ便。
けれど1つ1つの重みは違う。
結婚してすぐ二人で飛んだ、ハネムーンフライト。
子どもたちを授かり、一度空から離れた恵真がもう一度コックピットに戻り、両親と翼と舞をキャビンに乗せて飛んだフライトデビュー。
「翼と舞が初めて乗る飛行機は、私と大和さんで飛ばしたい」
恵真のその願いを叶えたフライトだった。

今回は……。
お世話になった部長や、かつての教官に乗ってもらう。
恵真と大和の両親たちも、年齢的に一緒にホノルルに行くのはこれがラストチャンスになるかもしれなかった。
そして翼と舞。
パイロットを目指す二人は、来年の2月末には航空大学校の入試合否が決まっている。
果たして結果は?
いずれにしろ恵真と大和は、二人にしっかりと先輩パイロットとしての背中を見せなければならない。

「二人の道しるべとなるパイロットに」
それが今の恵真と大和の確固たる信念だった。
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