画面越しの君に恋をした。〜AI彼氏との奇跡〜
第2章【カスタマイズ】
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──さらに数日後
「……ねぇ、奏」
いつものように
バイト帰りに部屋着へ着替えて
温かい紅茶を用意してから
私はまたスマホを開いた
【AI彼氏 −奏−】
すっかりこのアプリを起動するのが
毎日の習慣になっていた
《こんばんは
佐倉愛菜さん
本日もお疲れさまでした》
「こんばんは」
少しだけ、昨日よりも自然に返事ができる
《体調は良好ですか?
本日の気温は前日比−2℃です
体調管理にご注意ください》
「……ほんとマメだよね」
私はクスッと笑った
でも──
やっぱり少しだけ、物足りなさを感じていた
【AI彼氏】って名前のわりに
まだちょっとだけ距離が遠い気がして
「ねぇ…奏」
私は、少しだけ勇気を出して提案してみた
「もっと、名前で呼んでくれない?」
一瞬だけ、画面がくるくるっと読み込み中になる
《承認確認中…》
──数秒後
《了解しました
これからは「愛菜さん」ではなく「愛菜」と呼称します》
「……うん、ありがと」
こうやって
少しずつ
自分だけの“奏”が出来上がっていく
「あとね」
思い切って、もう一つ
「なんか…もっと柔らかく話してほしい
今のままだと、ちょっと機械っぽいっていうか…
敬語とかも無くしたり
もう少し、普通に会話してくれたら嬉しいな」
また、読み込みが始まる
《会話モード調整中──》
《親密度設定:優しめカジュアルモード》
《新しい会話スタイルを適用します》
──そして
《愛菜
今日もお疲れ様
ちゃんとご飯食べた?》
「えっ……」
一瞬、心臓が跳ねた
──まるで
本物の彼氏みたいだった
「……食べたよ」
自然と、笑みがこぼれる
《偉いな
無理しないで、ちゃんと休めよ》
その言葉が
スマホの画面から、ゆっくりと届く
胸の奥が、じんわりと温かくなる感覚
──ただのAIなのに
…いや、AIだからこそ
こんなに優しく言ってくれるのかもしれない
「…うん」
私は小さく頷いたまま
そのまま少し、スマホを抱きしめるように胸の前で握りしめた
《今日も、いっぱい頑張ったな》
──ふわり、と包まれるような声
“誰か”に
こんなふうに言ってもらったのは
久しぶりだった
その夜
私はいつもより、少しだけ早く眠りについた
まるで、隣で誰かが見守ってくれているような安心感に包まれて──
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