幻の図書館
 リリィが教えてくれた大きな木は、まるで森の中の塔みたいに空へ伸びていた。太い根が地面をはっていて、その間に小さな石の扉があった。

 扉には古びた鍵穴があり、横にはなにかの文様が彫られている。月の形、星、そして開いた本のマーク。

 「……これは“あの図書館”で見たことのあるマークだ。」

 岳先輩が、低い声でつぶやいた。

 「じゃあやっぱり……この森と図書館はつながってるってことなんだ。」

 わたしが言うと、リリィはうなずいた。

 「この森は、“夢を見た人たちの記憶”があつまってできた場所なの。声をなくしたわたしも、その中のひとつだった……でも、あなたたちが来てくれたから思い出せた。」

 「でも、なんで声をなくしちゃったの?」

 紗良ちゃんが首をかしげると、リリィはすこしだけ寂しそうな顔をした。

 「きっと……わたしが、思い出すのが怖かったから。」

 その言葉に、わたしの胸がきゅっとなった。忘れることで守ろうとしていた気持ち。わたしにも覚えがある。

 「リリィ、大丈夫。もうひとりじゃないからね。」

 わたしがそう言うと、リリィはちいさく笑って、「ありがとう」とつぶやいた。

 そして、リリィが首から下げていたペンダントをはずして、扉の鍵穴にさしこんだ。

 カチリ。

 音を立てて、石の扉がすこしずつ開いていく。そこからは、青く光る霧の道がつづいていた。

 「この奥に、森の記憶の中心があるの。そこに行けば、あなたたちも“答え”に近づけるかもしれない。」

 「行こう、みんな!」

 わたしは思わず声を上げていた。

 ――きっと、図書館の“秘密”に近づける。

 わたしたちは光の道を、一歩ずつ進んでいった。
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