幻の図書館
 光に包まれたその先で、わたしたちは静かな広場に立っていた。

 空は青っぽい紫色に染まり、まるで夕暮れがずっと続いているみたい。風はほとんどなく、静けさだけがあたりを支配していた。

 中央には、大きな石碑。そして、そのまわりには古びた本棚が並び、どこか祭壇のような雰囲気をかもし出している。

 「ここ……図書館?でも、ちょっと違う……。」

 わたしはあたりを見回した。棚に並んでいる本の背表紙には、どれも似たようなタイトルが書かれていた。

 『記録:○○』

 中には「記録:仮面の町」「記録:時の塔」「記録:森の少女」など、今までわたしたちが訪れた本の世界らしい名前もあった。

 「やっぱり……ここは図書館の記憶を保管する場所なんだ。」

 岳先輩がつぶやいた。

 「あれ、あの石碑……なにか書いてあるよ!」

 紗良ちゃんが指さした先、石碑にはびっしりと文字が刻まれていた。わたしたちは顔を近づけて、それを読み始めた。

 『――かつて、世界は「知の守り手」によって支えられていた。
  彼らは、本の力で知識を伝え、真実を守り続けていた。
  だが、ある時、知の力が悪用され、世界は混乱に陥った。
  「図書館」はその混乱を封じ、真実を忘れさせるために作られた。
  図書館に集められた物語は、かつて実在した記憶。
  それを解き明かせる者だけが、扉の向こうにある真実へと至る。』

 「これって……つまり、今までの物語って、本当の出来事だったってこと?」

 わたしは思わず口に出していた。

 「ただの物語じゃなくて、実際にあった話……?」

 蒼くんの表情も険しくなる。

 「つまり、この『図書館』は、世界の“記憶”そのものってことか。」

 「でも、それを隠す必要があったってことは……。」

 わたしたちは、言葉を飲んだ。

 誰が、何のために――?

 そのとき、ふと一冊の本が棚から落ちて、わたしの足元に転がった。

 「ん……?これ……。」

 わたしはそれを手に取った。タイトルは書かれていない。ただ、背表紙にだけ、かすれた金の文字でこうあった。

 『記録:知の守り手』

 ページをめくった瞬間、またしても、まばゆい光がわたしたちを包み込んだ――。
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