幼なじみに溺れました

お前の名前だよ


ーーー

 

「…んじゃ そろそろ席座るか」

 

入学式の後でガヤガヤしてた教室が
少しずつ落ち着き始めた時だった

 

凛が沙耶たちと空いてる席を探していると

不意に
後ろから誰かが肩越しに声をかけてきた

 

「お前さ 新入生?」

 

振り向いた瞬間
さっき見たあの男子――一ノ瀬凪が目の前に立っていた

 

至近距離で見ると
余計に顔が整いすぎてて 正直ちょっと見惚れてしまいそうになる

 

黒髪はラフに無造作にセットされ
ピアスはしてないけど耳元の小さなホクロが妙に色っぽい

制服のネクタイも緩く 絶妙にだらしない

 

「え…あ、うん」

 

「だよな 初めて見る顔」

 

軽く口角を上げて笑うその目は
なんか…余裕がありすぎて少し怖い

 

「名前」

 

「え?」

 

「お前の名前だよ。聞いてんのわかんね?」

 

その言い方に 一瞬戸惑う

何それ 何様?って思いつつも
周囲の女子たちがヒソヒソしてるのがわかる

 

「…桜井 凛」

 

「ふーん 凛、ね」

 

凪はニヤッと笑って こちらを上から下まで一度だけ見た

 

「…かわいーじゃん」

 

「え…」

 

いきなりそんなこと言われて
反応に困る

沙耶が後ろで「やば…」と小声で笑いを堪えていた

 

「ま、よろしくな 桜井」

 

凪はそれだけ言うと
ポケットに手を突っ込んだまま 余裕の表情で自分の席に戻っていった

 

なんだろう この人

出会って数秒で
妙に心臓がドキドキしていた

 

ーーー

 
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