幼なじみに溺れました
席替え
ーーー
入学式が終わって数日が経った
まだクラスの空気はふわふわしててみんなが探り合ってる感じだった
そんな中で一ノ瀬凪の存在はすでに特別だった
朝教室に入ると毎回誰かが彼の席の周りに集まっていた
女の子たちは自然に群がる
ちょっと話しかければ簡単にキャーキャー騒ぎになる
「なぎくん今日髪型かっこいい」
「昨日のネイル見てよ可愛くない」
「彼女いるの」
そんな取り巻きの中で凪はいつも気怠そうに笑ってた
「別に いねーし」
「髪適当 風で勝手にこうなっただけ」
答えも全部軽いのにその軽さがまた女子には刺さるらしい
凛はその光景を少し離れた席から見ていた
「うわ ほんとに毎日囲まれてるじゃん」
沙耶がひそひそと耳打ちしてくる
「やっぱ危険物件だよね」
「まぁ あんなイケメンであの空気感だったらモテるのは当然か」
「でもやっぱ無理 なんか怖い」
結愛も苦笑いしていた
凛は曖昧に笑って相槌を打ちながらもなぜか視線が彼の方へ勝手に流れてしまう自分に気づいていた
遊んでる男って聞いてるし関わるのは避けたいはずなのに
目の端に入るたび無意識に意識してしまう
あの余裕ある笑い方とか
目が合うと一瞬だけ鋭く光る視線とか
何度かふとした拍子に目が合った
そのたび凪は少しだけ口角を上げて微笑む
まるで何かを見透かしてるみたいな目だった
ある日
席替えの話が出た
「そろそろ席替えしようかー」
担任がそう言った瞬間クラス中がざわついた
「なぎくんの隣になりたーい」
「くじ引き楽しみ」
沙耶と結愛はすかさず凛の肩をポンと叩いた
「凛 絶対なぎの隣引いたら死ぬよね」
「ほんと それで毎日話しかけられたらやばくない」
「いやいや私そんな運持ってないから」
凛は苦笑いしながら否定した
なのに
くじ引きの結果はあっさりと現実を裏切った
凛のくじの紙には “窓際後ろから二番目” と書かれていた
隣の席に座ってるのはもちろん
一ノ瀬凪だった
「マジか…」
沙耶が小声で爆笑してるのが聞こえた
「持ってるね凛」
席に戻ると凪は既に腰をかけていて
その鋭い目でこちらをじっと見ていた
「へえ お前 俺の隣か」
「あ うん そうみたい」
「運いいじゃん 近くで俺見放題だぞ」
「…別に興味ないけど」
凛は思わずそっけなく返してしまった
なのに凪は逆に楽しそうに笑った
「いいじゃん そういうとこ かわいいわ」
やたら軽いその言葉にまた心臓が跳ねる
距離が近い
声が低い
目線が合うたびに胸がざわつく
苦手だと思ってたはずなのに
嫌悪感だけじゃ済まなくなってきてる自分に気づいていた
ーーー