幼なじみに溺れました
番外編

約束の先へ


ーーー


 

社会人になってからも
ふたりの距離は何一つ変わらなかった

 

通い慣れたカフェのテラス席で
凛はコーヒーを手に持ちながら小さく息を吐く

 

「…社会人ってさ、思ったより大変だよね」

 

「まあな」

 

凪はゆるく笑いながら
向かいの席で凛をじっと見つめている

 

「でも まあ」

「お前が隣にいりゃ別に何とでもなる」

 

「ほんと、いつもそうやって簡単に言う…」

 

「嘘じゃねえし」

 

いつものような軽いやり取り
でも、今日は少しだけ空気が違っていた

 

夕暮れのオレンジ色の光が
ふたりの影を長く伸ばしていく

 

凪はふとカップを置き
ゆっくりと立ち上がる

 

「な、なに…?」

 

「ちょっと付き合え」

 

そのまま自然に手を取られて歩き出す

 

人混みの中を抜け
着いたのは
昔ふたりでよく歩いた あの小さな公園だった

 

金魚を取った夏祭り
手を繋いで歩いた花火大会
屋台でりんご飴を分け合った夜

 

あの時の景色が
ふたりの記憶ごと染み込んでいる場所

 

ベンチに並んで座ると
凪は少しだけ黙ったまま空を見上げた

 

街の灯りがポツポツと点き始める時間

 

「なあ」

 

「ん?」

 

「俺ら ずっとこうやってきたよな」

 

「…うん」

 

「お前に再会して」

「最初はわざと気づかないふりもして」

「独占して、甘やかして、独占されて?」

 

「はは…なにそれ…」

 

凪はゆっくりと凛の方へ向き直った

その瞳はいつもよりも少しだけ真剣で
でも優しさは全く変わっていない

 

「だからさ」

「ここらでちゃんと もう一段、縛っとこうと思って」

 

凛が息をのむ

 

凪はポケットから
小さな黒い箱を取り出した

 

ゆっくりと開くと
そこには細く光るプラチナの指輪

中央には小さなダイヤがひと粒だけ輝いていた

 

「…な、凪…?」

 

「今さら驚くなよ」

 

「だって…!」

 

「お前のこと独占するのはもう当然だけどさ」

「“嫁”として独占する準備も そろそろいいだろ?」

 

「……」

 

凛は顔を覆いそうになりながらも
なんとか目を逸らさずに答えた

 

「…ずるい…」

「ほんとに…ずるい…」

「…けど…」

 

凪はゆっくり微笑んだ

 

「けど?」

 

「…ずっと、凪だけのものになる…!」

「…ずっと、独占して…」

 

凪はゆっくり立ち上がり
凛の左手を取って指輪をはめた

 

「安心しろ」

「逃げ道なんて最初から作らせねえから」

 

そのまま優しく唇を重ねる

 

静かに雪が舞い始めた冬の空

ふたりの約束は
また新しく更新されていった

 

(これからも、何があっても)

(ずっと――)

 

ーーー

《 番外編・完 》

ーーー

 
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