犬猿の仲でも溺愛が止まりません!



「そうなんですね……心配して、東京からわざわざありがとうございます」

玄関を入ると大理石の床、立派な扉を開けるとカウンターキッチンと、家族が団らんしていたであろう巨大なテレビと、
8人くらいがかけられそうなソファーがおしゃれに並んでいた。

夏希はビビりながらも、ソファーに案内され座った。

「オカン、座っとかな」

佐原母はソファーに倒れるように座ると、ヨロヨロとしながら深々とお辞儀をした。

「いえいえ!こんな大変な時に来てしまって……」
「あの人がいないと、家が静まり返って……すん……すん……」
「おかん、泣かんで。親父も頑張っとるんやから」
佐原が横に座り、そっと母の肩を支える。

佐原母はハンカチで涙を拭きながら、ヨヨヨと泣いている。

(お母様はめちゃくちゃ深窓の令嬢って感じの方だな……)

「……で、あなたは涼司のカノジョサン?」
と、突然、佐原母が夏希をじっと見て本題に入った。

「えっ!あ、あの……」
そういえば、まだ……ということで、夏希はオタオタしてしまう。

「今、良い感じの同期やねん。デートしとったら、親父が倒れたゆうて大阪帰ってきたんよ」
佐原はサッと説明する。
「あぁ、そういえばデートしてたって言ってたわねぇ……」
「まだ返事もろうてないんやけど、とりあえず伊藤はめっちゃ信頼できる仲間やから!」
「……うーん、じゃあ、とりあえず同期のお友達ってことで……」
佐原母は二人の関係に落としどころを見つけたらしく、頷いた。

(理解の早い二人……)
夏希はちょっと呆然とした。

「伊藤が来てくれて心強いわ」
と、佐原が嬉しそうに笑った。

「伊藤……何ちゃん?」
佐原母が首を傾げて名前を聞く。
「伊藤夏希です!」
と元気に言うと、
「夏希ちゃんね!」
と、いきなり下の名前で呼ばれた。


「私は桜井百合。百合さんって呼んでくれたら嬉しいわ!」
「え……いいんですか?」
急な申し出に夏希は戸惑う。
「もちろん!
涼司のお友達ってことは、お母さんじゃなくて、お姉さんみたいに接してほしいもの!」
さすが佐原母。弱っているが圧が佐原くらい強い。

「えぇ……ゆ、百合さん?」
「そうよ!夏希ちゃん!」

ここに来て初めて、佐原母が華のように笑った。
佐原もそれを見て嬉しそうにしている。

「じゃあ、涼司……三人で美味しいもの食べに行きましょう!」
「……へ?」
「この1週間、生きた心地がしなくて、……今もなんだけど。せっかく夏希ちゃんが来てくれたんですもの!美味しいもの食べて、少し元気だしましょう」
と、佐原母が急にやる気になった。

「オカン、大丈夫なんか?」
「久しぶりにおうどん食べたくなっちゃった」
「ほんまに?」
「貧血で倒れただけよ!せっかく夏希ちゃん来てくれたんだし!」

お手伝いさんを呼び、車を運転手みたいな人に出してもらい、立派な料亭に着いた……。
あれ……おうどんは!?
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