犬猿の仲でも溺愛が止まりません!
16 犬猿な二人
夏希は、あの日以来ギリギリまで働くことなく、自分のペースで至って普段通りに過ごすことができていた。
「先輩、なんか落ち着いてますね?何かありました?」
と、由佳に聞かれたが、
「なーんにも。いつもに戻っただけ」
と、夏希は笑うだけだった。
「よっしゃ、山田建設にアポ取ってこよう〜!」
と、意気揚々と外回りに出かけていった。
そんな中、夕方に社長代理の佐原……改め桜井社長代理が、大阪本社からやってきた。
黒塗りのロールスロイスに乗り、社屋の前に乗り付けた様子を見た時はさすがの夏希も驚いた。
たまたま外回りから帰るところだったのだ。
「キャー佐原さん、あっ、桜井社長代理が戻ってきたぁ!」
たまたま出くわした女子たちはキャーキャー言いながら、
佐原をみていた。
(……佐原……)
佐原が長い脚を出し、ササッとロールスロイスを降りる。
落ち着いた表情で開けてくれた運転手にも優しい笑顔で会釈する。その姿は確かに御曹司らしく、有無と言わせない威厳があり、傲慢さの無い美しい所作だった。
その次に秘書らしき人が降りてきた。
佐原の横にいるのは……玲香ではなかった。
眼鏡をかけた年配の落ち着いた男性だった。
「今日は経営会議の後、高橋専務と営業企画部の会議があります」
「分かりました」
軽い足取りでエントランスに入ると、
すぐに上役たちがお辞儀をして、取り囲んだ。
キャーキャー言う女子たちに混ざって、足を止めた夏希に、
佐原は片手をあげて爽やかに微笑んだ。
「キャー!!」
と、女子たちは自分に手を振られたと興奮したが、
夏希は、
(クッソー!爽やかな顔しやがって!)
と内心ムカッとしていた。
(こっちの長いモヤモヤを返せ!!)
と、一人イラッとしていた。
座席に戻ると、由佳が、
「佐原……桜井社長代理帰ってきたんですね」
とコソッと話しかけてきた。
「ロールスロイスに乗って、車から軽やかに降りてきたわよ」
とむくれて言った。
「えーほんとは嬉しいくせにぃ〜」
由佳にツンツンされると、
「いや、私は仕事頑張るだけだから」
と、夏希はまた仕事に向かっていった。