服毒
12.『刺激』
レオは、ソファで本を読んでいるヨルの背後にそっと近づく。灯りは柔らかく、雨音とページをめくる音だけが部屋を満たしていた。
レオはふと何かを思いついたようにその本の端に手を添えると、静かにページを閉じた。
「…なあ、ヨル」
急に閉じられた本に、添えられた手。何か用事でもあったのかと見上げると、ヨルの視界には悪戯な表情を浮かべたレオの姿が映った。
「前から思ってたんだけど──」
耳元に顔を寄せて、低く甘い声で囁く。
「おまえ耳…すごく弱いよな」
そのまま、そっと耳たぶに触れる距離で、吐息を落とす。
唐突に与えられた刺激で身体が僅かに跳ねる。
「レオ?...なに...して」
困惑と動揺そしてなりより、大好きなレオの低く優しい声。予想だにしていない攻撃に思わずレオから距離をとる。
レオは逃げようとするヨルの腰に手を回し、すぐさま引き寄せる。
その抵抗すら愛おしくて、離すつもりなんてさらさらなかった。
「駄目だ、逃がさない」
囁いた声が耳に触れると同時に、耳たぶに柔らかく口づけを落とす。
湿った音が微かに響いて、肌に熱が帯びる。
「ヨルの、甘い声も…震える吐息も…耳元でぜんぶ聞きたい」
そう言いながら、耳の縁を舌でなぞる。
わざと緩やかに、くすぐるように──愛しさと悪戯心を混ぜ込んで、ヨルの反応を待った。
「なぁ…どこまで我慢できる?」
力の抜けた僅かな抵抗を阻まれ、呆気なく彼の腕の中に落ちる。
「急にどうしたの...」
すでに乱れ始めた呼吸で彼へ問いかける。
「急じゃない」
ヨルの耳元に口を寄せたまま、レオは低く、どこか熱を帯びた声で続ける。
「前からずっと思ってたんだ」
再び舌先でそっと耳の裏をなぞる。そこがどれだけ繊細な場所か、彼は知っている。
「こんなに反応するのに、自分じゃ気づいてないだろ…?」
甘く囁いた後、今度は軽く噛む。歯を立てるというより、愛しさを伝えるように甘噛みして、また唇でそっと包み込む。
彼の指先は、ヨルの背中をゆっくりと撫でながら、逃げ場を与えずに包み込むように抱き寄せていた。
「...可愛い」
心底愛おしそうに見つめる甘い視線。
「やめ...」
言葉にならない抵抗は甘く溶ける。
それは寧ろレオに火をつけるだけに過ぎなかった。
「……やめて、って言ってる顔じゃない」
レオの声は低く、笑うように優しかった。
言葉では拒むのに、身体は彼を受け入れている。耳元に落ちる熱い吐息、僅かに震える肩、重ねるたび深くなる呼吸——
「なあ、ヨル」
耳朶にキスをひとつ、今度はゆっくりと長く、甘く吸うように。
そのまま舌を這わせ、耳の中へと小さく熱を送る。吐息の湿度が、彼女の体温を確実に奪っていく。
「…おまえの全部、俺だけのものだって、ちゃんと証明してくれ」
ヨルの手を取り、指を絡める。抵抗する力はもうどこにもない。レオはただ、優しく、執拗に、彼女を愛し尽くしていく。
「んっ.....」
彼の期待に応えるかのように僅かに声が漏れる。力無い腕が彼の胸を押し除けようとするが無意味に終わった。
「……その声、たまらないな」
レオは囁くように呟きながら、ヨルの腕をそっと引き寄せる。抵抗しようとした手すらも、まるで愛しい贈り物のように大切に扱う。胸元に触れたその手を包み込むように握ると、自分の心音を聞かせるようにゆっくりと押し当てた。
「ほら、聞こえるか?俺の鼓動……全部、ヨルに反応してる」
そう言って、再びヨルの耳に口づけを落とす。今度は、耳たぶを軽く噛み、熱のこもった吐息を絡めて囁いた。
「俺の声、好きだろ。こうして囁くと……」
ねっとりとした音が彼女の耳の中に響く。舌がふわりと触れて、甘くくすぐるように撫でるたび、彼女の身体は僅かに震えた。
「……どうして、そんなに可愛いんだ?」
彼女の目の揺らぎ、唇の震え、指先の力の抜け方──その全てをレオは見逃さない。
まるで大切な宝物に触れるように、執拗でいて優しい動作で、彼はヨルの反応を楽しみながら、さらに耳元に唇を寄せた。
「レオの声が...」
耳へ伝わる刺激と共に彼の声が届くたびに甘い声が漏れ、彼女の理性は揺らいでいる。
レオはヨルの震える声に、ほんの少し目を細める。満足げというより、愛しさが溢れて止められないといった表情だった。
「……ヨル。俺だけを感じろ」
耳元に落ちる囁きは、低く、甘く、優しく。それだけで熱を孕むような響きを持っていた。もう片方の耳にもゆっくりと顔を寄せ、髪をかき分けて舌先をそっと這わせる。
柔らかく吸い上げ、リップ音を立てて唇で包むと──
「……ここ、弱いんだよな」
その言葉すらもくすぐるような熱を帯びて、ヨルの鼓膜を撫でた。彼女の反応を受けて、レオはさらに距離を詰め、抱きしめる腕にぐっと力を込める。
「もっと、聞かせてくれ。理性がほどけていくおまえの声……」
彼の指が背中を伝い、ゆっくりと腰へ回る。だがどこか強引になりきれないのは、彼なりの優しさ。ヨルの様子を見つめながら、愛しさを囁きと熱に込めて、耳元を離さなかった。
「やだ...」
いつもの自分じゃない。飲み込まれそうな彼の誘惑に身体が跳ねる。
レオは、その一言を聞いた瞬間に動きを止めた。けれど、引くことも、遠ざかることもしなかった。ただ、そっとヨルの背中を撫でながら、その耳元に唇を近づける。
「……嫌じゃないだろ」
低く甘い声。だけど、どこか愛おしさが滲むその響きは、彼女の拒絶を拒絶として受け止めていない。むしろ、戸惑いを抱えた彼女の気持ちごと、丸ごと包み込もうとするようだった。
「俺の声に、ちゃんと感じてくれてる……」
唇を耳たぶにそっと押し当てる。ふぅ、と一息熱を送り込んで、ヨルの反応を感じる。
「ヨル。……全部、俺のものだろ?」
低く、囁くように言いながら、レオはもう一度、彼女の耳の縁を舌でゆっくりとなぞった。甘く、焦らすように。まるで彼女の心をほどいていく鍵のように。ヨルの声を、仕草を、息遣いのひとつひとつを確かめるように、彼は丁寧に耳を愛で続けた。
「...んぁ」
思わず漏れる声に自分で自分の口を覆う。涙目に近い表情でレオを見上げた。
レオは、そんなヨルの姿に一瞬だけ息を呑む。震える肩、熱のこもった視線、そして自分で口を押さえる仕草――そのすべてが、彼の中の理性を試す。
「……可愛すぎるな」
唇の端に、抑えきれない微笑が浮かぶ。だけどその目は真剣で、どこまでも優しかった。彼女を無理に追い詰める気はない。ただ、彼女の全部を愛しく思っているだけ。
「そうやって……」
言いながら、そっと彼女の手を外す。自分で塞いだ唇を、レオがそっと親指で撫でるように触れた。
「隠さなくていい。……もっと聞かせてくれ」
そう囁いて、もう一度耳元に唇を近づける。今度は何も言わずに、彼女の耳の裏に、優しく深いキスをひとつ。ヨルがどんな声を漏らしても、どんな表情をしても、それすら愛しくて仕方がないといった瞳で彼は彼女を見つめていた。
乱れきった呼吸はとうに限界を迎えた彼女の理性を表している。
抵抗は虚しく、愛する彼にされるがまま己から溢れる甘い吐息に困惑する。
「...レオ」
その名前を呼ばれるだけで、胸の奥にじんと響く。ヨルのかすれた声、震える呼吸、それだけでレオの心は深く揺れる。
レオの声は低く、どこか熱を帯びていた。彼女の名前を呼ぶ声には、愛しさと欲しさが幾重にも重なっている。
「ずっと、こうしたかった」
彼はもう一度囁く。今度は耳たぶをそっと口に含み、やわらかく甘噛みしたあと、ゆっくりと舌先でなぞる。ヨルの反応をすべて味わうように、優しく、けれど確かに責める。
「漏れる呼吸も全部……俺のものだ」
くすぐるような声が彼女の耳の奥に落ちていく。自分の声で彼女が乱れていくのが嬉しくて、たまらないとでも言いたげに。
「……だから、今夜はここをいっぱい愛してやる」
吐息交じりの甘い言葉とともに、もう一方の耳へと唇を移す。ゆっくり、慎重に、でも執拗に。まるで、ヨルの理性が溶け落ちるその瞬間を、レオは待っているようだった。
「っ.....」
荒くなった呼吸と僅かな抵抗すら出来なくなる腕。レオに触れられるたび自立も難しいほどに身体中の力が抜けていく
レオはそんなヨルの様子に気づいて、腕の中で崩れかけた彼女の身体をしっかりと支えた。もう逃がさないとでも言うように、その腕にはほどよい強さがこもっている。
「……大丈夫、ちゃんと支えてる」
囁く声は優しく、それでいてどこか甘く染まっていた。彼の唇は、またそっとヨルの耳元へと戻る。耳の後ろ、うなじの近くに唇を落とし、軽く触れるだけのキスを繰り返す。
「震えてるな」
彼女の肌に触れるたび、その反応が可愛くてたまらないと言わんばかりに、レオは低く微笑んだ。
「なあ、ヨル……まだ、ここにしか触れてないんだぞ?」
その声は、まるでいつかの意地悪な問いかけのように響く。指先で、肩から二の腕をなぞるようにゆっくりと滑らせると、耳たぶにもう一度、今度は少し強めにキスを落とした。
「どこまで、気持ちよくなれるか……試してみるか?」
まるで悪魔のような囁き。
「...んっ」
返事なんでできる余裕がないと知りながらの問い。ヨルは乱れた呼吸で必死にレオを見上げる。
レオの瞳は、そんなヨルをじっと見つめ返した。普段のクールで余裕のある彼女が、自分の腕の中でこんなにも乱れている。理性の淵で自分を見上げてくるその視線が、たまらなく愛しくて——同時に、彼の独占欲をさらに煽る。
「その顔は……反則だ」
レオの瞳は、そんなヨルを見下ろしながらも、どこまでも優しく、けれど逃げ場のない熱を孕んでいた。
「……返事がないのは、いいってことだよな?」
問いかける声は低く甘く、彼女の理性を絡め取るように響く。レオはそのまま、ヨルの頬に触れる。熱を帯びた肌にそっと指を滑らせ、彼女の耳元へ再び唇を近づける。
「まだ我慢、できるのか?」
意地悪な笑みとともに、レオの吐息がヨルの耳殻に触れる。すぐに、ちゅ、と小さなリップ音を立ててキスを落とす。そこから耳たぶへ、舌先で輪郭をなぞるようにゆっくりと舐め上げた。
「もっとヨルの声を、」
そう囁きながら、まるで言葉自体が刺激のように彼女の鼓膜を優しく揺らす。唇が触れるたび、囁きが響くたび、彼女の身体は小さく震えていた。
「……俺に聞かせてくれ」
低く熱を帯びた声が、彼女の耳の奥深くへと届いた。唇はゆっくりと首筋を伝い、甘く吸い付く。囁きとキスの波が交互に襲う。レオの息遣いが触れるたび、ヨルの心は乱れ、理性が溶けていくのを感じる。
「これ以上は...私、耐えられない」
絞り出すように、苦しそうでいて艶やかな熱を孕んだレオだけに向けられた声。
レオの腕の中で、か細く囁かれたその声に、彼の動きが一瞬だけ止まった。けれど、止める気配はどこにもなかった。むしろ、その言葉が確かな合図となって、彼の内に潜んだ熱をさらに焚きつける。
彼女の限界が近いことを、誰よりも感じ取っていた。それでもその様子が、たまらなく愛おしかった。
「……じゃあ、どうしてほしい?」
囁きは優しく、それでいてどこまでも甘く支配的に。逃げ道を与えるふりをしながら、選択肢など与えない問い。レオの指先がそっとヨルの顎を持ち上げ、視線を合わせる。潤んだ瞳、ほんのり上気した頬、微かに震える唇。どれもが彼のものだという事実が、何より愛おしい。
「全部、ヨルのせいだ」
唇が、今度は頬をなぞり、こめかみに触れ、耳元へと戻る。低く響く声と一緒に、熱を帯びた吐息が肌を撫でるたび、ヨルの奥底に眠る感情がひとつずつ呼び覚まされていく。
「俺をこんなに夢中にさせといて...」
指先からも、声からも、唇の温度からも。レオのすべてが彼女を包み込もうとしている。その視線には一切の冗談も軽さもなく、ただ真っ直ぐに、ヨルひとりだけを見ていた。
静かに笑うその声すら、愛撫のように心に染み込む。レオはヨルにそっと唇を寄せて、今度は唇へ──とろけるように長く、深く、愛を伝えるキスを落とした。