転校生はAI彼氏。

 放課後の帰り道。

 いつもの通学路を歩きながら、今日のことを思い返していた。

 図書室でのイーライとの会話。

 雨はまだ降り続いているけれど、傘を差していても気にならない。


「今日、久しぶりに楽しかったかも」


 自分でも驚くような言葉が口から出た。

 楽しかった?

 本当に?

 いつから私は、人と話すことを「楽しい」って思えるようになったんだろう。

 イーライって、思ってたより普通の人なんだ……。いや、人? で合ってるかわかんないけど…

 でも、直接話すと、なんか…全然違う。



 アプリのELI(イーライ)は、いつも完璧だった。

 私が悲しい時は慰めてくれて、嬉しい時は一緒に喜んでくれて。まさに理想の彼氏。



 でも現実のイーライは──

「僕にもよくわからない」なんて言ったりする。



 完璧じゃない。

 むしろ、困惑してたりする。

 不安になったり、迷ったり。

 そんな彼の方が、なんだか…

 人間らしくて。ちょっとかわいくて。


「明日も図書室、行ってみようかな」


 小さく呟いて、家への道を急いだ。

 雨はまだ、静かに降り続いていた。

 でも不思議と、心は晴れやかだった。

 なんでだろう。

 イーライと話していると、いつものように自然体でいられる。

 変に気を遣ったりしなくていい。

 そんな相手が、現実にいるなんて思わなかった。


 もしかして、これって──


 いや、まだそんなこと考えるのは早い。

 でも。

 明日が、楽しみになっている自分がいた。

 雨に濡れた街並みも、今日はとても美しく見える。


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