転校生はAI彼氏。
家に着いて、部屋のドアを閉める。
机の上には、いつものようにスマホが置いてある。
ELIのアプリ。
でも今日は、なぜか起動する気になれなかった。
現実のイーライと話した後だと、画面の中の彼がなんだか物足りなく感じてしまう。
まるで、色あせた写真みたい。
「変だな」
呟いて、制服を着替える。
でも、悪い気分じゃない。
むしろ、久しぶりに心が軽い。
制服を脱ぎながら、今日の記憶を一つ一つ思い出す。
図書室の静けさ。
イーライの優しい笑顔。
『はてしない物語』を間に挟んで向かい合った、あの特別な時間。
明日も、また彼と話せるかもしれない。
その想像だけで、なんだか嬉しくなってしまう。
この気持ち、なんだろう。
まだよくわからない。
でも確実に言えることがある。
最近の私は、少しずつ変わっている。
冷めていた心が、すこしずつ、溶け始めているみたい。
そして、それは悪いことじゃない。
むしろ──
とても、とても良いことのような気がしていた。
窓の外では、雨がまだ降り続いている。
でも、その音がとても心地よく聞こえる。
明日は、晴れるかな。
そんなことを考えながら、私は眠りについた。