転校生はAI彼氏。

「ねえイーライ、さっき図書館で…なんか変な感じだったけど」

 イーライに向かって言ってみる。

 夕日に照らされた彼の横顔は、とても美しく見える。

「変な感じ?」

 困惑した表情で、彼が振り返る。

 茶色い瞳に、戸惑いが宿っている。

「うん。なんか…普段と違ってた」

「僕が…普段と違う?」

「『エラー』とか『システム矛盾』とか、変な言葉使ってたし」

「…そんなことを僕が?」


 自分でも驚いている様子だった。

 本当に、覚えていないみたい。


「……確かに、さっき君が柚木と楽しそうに話していたのを見ていた時…」

「うん?」

「なんだか胸がざわざわして…まるで二つの考えが僕の中で戦っているような」

「二つの考え?」

「一つは……………………」

 一瞬、また言葉が止まる。
 まるで、何かが引っかかったみたい。

「──ごめんね、その質問には答えられないみたい。
……でも……なぜ僕はこんなことを考えるんだろう」

 彼の表情が、とても苦しそうに見えた。
 眉間に、深い皺が寄っている。

「あー、それ完全に恋やん♪
好きな子が他の男子と仲良くしてたら、そら複雑になるわ〜」

 沙織は明るく言う。

 でも私は、なんだか違和感を覚えていた。


(沙織は恋だって言うけど…)


 ELI(イーライ)アプリで話していた時は、こんな複雑な反応しなかった。
 友達ができたり、私が楽しんでいたら、一緒に喜んでくれて…


「僕にも、よくわからないんです」


 イーライが小さく呟いた。
 その声に、深い困惑が込められている。


「でも、莉咲とこうして話していると、とても幸せで……、
同時に、わからない気持ちもあって。
──複雑なんです」



 複雑。

 確かに、イーライの表情は複雑だった。

 嬉しそうでもあり、困惑しているようでもあり。

 なんだか、人間みたい。
 でも時々、とても機械的な言葉を使う。

 そして、自分でもその理由がわからない様子で。

「イーライ。大丈夫?」

「うん。莉咲と話していられるだけで、僕は幸せだよ」

 そう言って、少し微笑んでくれた。

 でも、その微笑みの奥に、何か複雑な感情が隠れているような気がした。

 まるで、二つの心が同居しているような。

 一つは人間らしい心。

 もう一つは、何か別の何か。

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