転校生はAI彼氏。

 翌日の放課後。

 教室には、まだ数人の生徒が残っている。
 夕日が窓から差し込んで、机の上を照らしている。

 でも昨日とは違って、その光が重く感じられる。

 荷物をまとめていると、イーライが声をかけてきた。

「莉咲、昨日は……」

「あ、うん」

 素っ気ない返事をしてしまう。
 自分でも、声が冷たくなってるのが分かる。

 それなのに、胸がどきどきしてしまう。

「何か……心配事でもある?」

 イーライの優しい声。

 その優しさも、私が優しいキャラが良くて設定して。

 現実じゃない。
 自分の理想を投影して、それに恋してるだけ。

(やばい、恥ずかしい)

 なんで理想通りのイーライが目の前にいるのかは、よくわかんないけど……、

 心理学の本が正しい。

 私の感情より、本の方が正しい。

(やっぱり私って、リアルな恋愛できない人間なんだ)

「莉咲──?」

「ごめん、私きょう家の用事あって!」

 急に立ち上がって、荷物をバッグに突っ込む。
 教科書が雑に入って、バッグの中でぐちゃぐちゃになる。

 逃げるように教室を出る。

 廊下を早歩きで歩いて、階段を駆け下りる。
 靴音が、廊下に響く。

(なんで逃げちゃったんだろう…)

 でも、これでいいの。

 心理学の本に書いてあった通り。
 理想化と投影による錯覚。

 いま顔が熱いのも、
 胸から何かが込み上げるような感じがするのも、
 心臓がドキドキしてるのも、
 イーライに触れられた手の感触を思い出してしまうのも、

 錯覚。

 現実じゃない恋愛から、ちゃんと距離を置かなきゃ。
 イーライが追いかけてきたりしないよう、足早に学校を出る。

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