双つの恋、選んだのは君だった
――――



講義が終わった帰り道

駅前の通りを歩いていたときだった

ふと前方に――

見覚えのある後ろ姿が見えた

(……樹先輩…?)

髪型も背丈も先輩そっくりだった

自然と足が早まる

「……先輩?」

小さく声をかけたけど届かなかった


少し小走りに追いかけて
ちょうど自販機の前で追いついた

「あの…」

先輩はゆっくり振り返った

(やっぱり先輩……だよね?)

でも、ほんの少しだけ違和感が残る

なんとなく視線の鋭さと、声の低さが少し違う気もした

「……紬ちゃん?」

名前を呼ばれて、ドキッとする

「は、はい!」

先輩は少し間が空いたあと、ふっと口元で微笑んだ

「…帰り?奇遇だね。こんなとこで」

その優しげな言い方に
わたしは少し安心して頷いた

「……はい、偶然ですね」

「……じゃあまた」

軽く手を振り、男の人は歩き去っていく

……と、その瞬間だった

向こう側から一人の女の子が現れて
先輩の腕に自然に絡んだ

(……え?)

一瞬だけ胸がざわついた

二人はそのまま並んで歩き去っていった

わたしはその背中を見送りながら
なんとなく立ち尽くしてしまった

(そだよね……彼女くらいいるよね…)

ちくっと胸が痛んだまま
小さなモヤモヤだけが残った――
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