双つの恋、選んだのは君だった
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響くんが自己紹介して
サークルの空気は自然に和んでいた
わたしはまだ
心臓のドキドキが止まらなかった
(……あのときの人……やっぱり)
しばらくして
樹先輩が席を外したタイミング
響くんがふとわたしの方を見た
「この前は声かけてくれてありがとね」
ドクン――
「……え?」
「駅前で」
わたしは一気に顔が熱くなった
「え、だって……あのとき先輩って…」
「俺、名乗ってないよ?」
少しだけ口元を緩めて
響くんは意地悪そうに微笑んだ
「……なのに紬ちゃんが”先輩”って呼ぶから
まあ、合わせたけど」
わたしはさらに動揺する
「で、でも…名前…知ってたじゃ…」
響くんはわざとらしく肩をすくめた
「兄貴がちょっと話してたよ
“紬ちゃんって子が入ってきたんだ”って」
わたしは俯いてしまった
(……ずるい……)
「偶然だったけど、あのとき紬ちゃんが俺の方見つけたとき
ちょっと面白かったから」
「……意地悪…です」
小さく呟くと、響くんはふっと笑った
「俺は俺なりに、優しくしてあげたつもりだけど?」
その低い声にまた
心臓がドクッと跳ねた
兄の優しさとは全然違う空気
「響あんまり紬ちゃんを困らせない!」
先輩の一言で少し、安心した
でも
新しいモヤモヤが
わたしの中にじわじわ広がりはじめていた__
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