双つの恋、選んだのは君だった
第4章

弟の存在






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それから数日――

サークルでは相変わらず樹先輩が優しくて
落ち着く時間が続いていた

「紬ちゃん、ここの感想まとめ上手だね」

「そ、そんなこと……」

「素直に受け取って」

樹先輩はいつもふわっと笑う

その笑顔を見るたびに
胸がじんわりと温かくなる

だけど――最近、わたしの中にもう一つ別の感情が芽生えていた

それは”響くん”の存在だった

あの日以降、たまに部室に顔を出すようになっていた響くんは

兄とはまるで違う空気を纏っていた

「今日も真面目にやってんな 紬ちゃん」

ふいに背後から声をかけられて振り向く

「……響くん」

「なに?俺のこと意識して緊張してる?」

意地悪そうに微笑まれるたびに
心臓がまた跳ねる

「し……してません…」

その返事に
響くんはわざとらしく肩をすくめた

「そか。なら良かった」

兄の優しさとは違う――
なんとも言えない挑発するような目線

(……ずるい……)

サークルが終わって帰るときも

「送っていこうか?」

響くんはさらっとそんなことを言ってくる

「え、でも…兄…先輩は…」

「兄貴は今日は用事あるってさ」

そう言いながら
響くんは軽く手を差し出してくる

わたしは……断りきれなくて
そのまま横に並んで歩き出した

夜の風が少し冷たくて
でも隣にいる響くんの存在は、やけに近かった

(……先輩とは全然違うのに…)

(なんでこんなにドキドキするの…)

わたしの心は
少しずつ揺れはじめていた__

――――
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