双つの恋、選んだのは君だった
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その週末

偶然、樹先輩と学内で会った

「紬ちゃん、良かったらこの後少しだけ時間ある?」

「……あります!」

即答してしまった自分に
内心で少し恥ずかしくなる

「じゃあ、良かったら近くのカフェ行こう」

初めてふたりきりで行くカフェだった

静かな席に座って
ゆっくりとコーヒーを飲みながら話していた

「最近、サークルにも慣れてきたみたいだね」

「……はい。皆さん優しくて」

「それは良かった」

ふわっと微笑む樹先輩の顔を見てると
なんだか胸の奥がじんわりあたたかくなる

「でも……」

ふいに樹先輩が少しだけ声を落とした

「響がちょっと紬ちゃんに意地悪してないかなって、少し心配してた」

「えっ…そんな…」

「アイツ、人をからかうのが趣味だからさ」

苦笑する先輩の声が優しくて
また胸がきゅっとなる

(先輩のこういうとこが…やっぱり好き…)

そんな時だった

カフェの扉が開いて――

「あれ、兄貴じゃん」

響くんが店に入ってきた

「偶然だな」

ふっと響くんは紬の隣に立つ

「紬ちゃんも一緒なんだ」

「え、あ……たまたまです」

樹先輩は苦笑しながら響くんを見る

「ほんと偶然だね」

「なぁ 俺も今度借りてぇ、紬ちゃん の時間」

ドクン――

突然の言葉に思わず動揺してしまう

「……え?」

「あんまりふたりで話したことねぇから」

響くんは軽く紬の方へ視線を向けて微笑む

樹先輩は優しく笑ったままだったけど

わたしの胸の中は
静かにざわつきはじめていた__

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