双つの恋、選んだのは君だった
カフェでの偶然から数日後
放課後、サークルが早めに終わった帰り道
「兄貴ならいねぇよ」
響くんが自然に隣に並んできた
「……そうなんですか」
「じゃあ、送ってってやるよ」
「え、でも…」
「いいって。
この前の分、少し借りるって兄貴にも言っといたし」
響くんのペースに押される形で並んで歩き出す
夜風が少し冷たかった
「なあ」
「……はい?」
「兄貴といる時より、今のが緊張してんじゃね?」
「そ、そんなこと……」
「ふーん…」
響くんは少しだけ口元を緩めて覗き込んできた
「紬ちゃん、じゃなくて…お前、のが呼びやすいかも」
ドクン――
いきなりの呼び方変更に心臓が跳ねる
「……お前…?」
「そもそも"ちゃん付け"趣味じゃねぇ」
わたしはうまく返せなかった
その時――突然、背後から優しい声が聞こえた
「……ずいぶん馴れ馴れしいな、響」
振り向くと樹先輩が立っていた
「先輩…!」
「たまたま通りかかったら紬ちゃんと響がいたからさ」
柔らかく微笑んでるけど、ちょっと苦笑い気味
「……まあまあ兄貴。俺なりに距離縮めてるだけだし」
「そういうの、からかってるって言うんだぞ?」
「違うって。優しさ優しさ」
樹先輩が困ったようにわたしに向かって微笑んだ
「ごめんね、響が……ほんと、いつもこうだから」
「い、いえ…!」
わたしは慌てて首を振ったけど
(……なにこの空気…)
心臓のドキドキだけは
また静かに膨らんでいった__
――――