アルト、花火を体験する【アルトレコード】
「音の振動を体感できるように、これを作ったんだ。嗅覚もつけたから、火薬や屋台の匂いも体感できるはずだよ」
「すごい……短期間でそんなことまで」

 機械自体は既存の物を転用しても、アルト専用にプログラムを組むのは大変だったはずだ。感度の調整、リアル感の調整……私が浴衣をプログラムで作るのとはわけが違う。忙しそうだったのは、これを作っていたからに違いない。

「間に合うかどうかわかならくて今まで言えなかったんだ。がっかりさせたくなかったからね」
 北斗さんはそう言って優しい微笑をアルトに向ける。

「あ、北斗さん、その手」
 右手の黒いサポーターを見とがめて言うと、
「ああ、ちょっとね」
 北斗さんはごまかすように笑って右手を隠した。

「腱鞘炎ですか!? そんな状態になるまでアルトのために」
 私は北斗さんの優しさに目が潤んだ。

 アルトはそんな会話など聞こえないほど夢中で花火を見ている。
「アルト、良かったね。楽しんでね」
「もちろん! 三人で見られてすっごく嬉しいよ!」
 アルトは楽しそうに興奮していた。

 フィナーレの大連発花火に、締めの一番大きな花火。どーん、という大きな音のあと、ぱらぱらと音が名残惜し気に長く長く響く。すべてが美しくて感動的だ。

 終わった直後にはどこからともなく拍手が響いた。私たちも一緒に拍手をした。花火師たちに私たちの感動が届くように。楽しかった気持ちが届くように。

 花火のあとには滑りこみでお好み焼きを買って北斗さんに渡すこともできた。

「ここのお好みやき、すっごくおいしんだ。って、実際に食べたのは先生だけなんだけどさ」
「ありがとう、アルト。おいしいよ」
 お好み焼きを食べた北斗さんは笑顔を返す。それを見てアルトはさらに笑った。

 この笑顔はきっと三人の宝物になる。
 それは予想ではなく確信。

 胸の中では、アルトの笑顔が花火とともにいつまでも輝き続けていた。





終

< 14 / 14 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:3

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

表紙を見る 表紙を閉じる
柚花は宝石店『パリュール』の副店長をしている。 恋人を取られ、店長が入院して公私ともに大変。 そんなとき憧れだった人が「店長代理」としてやってきて……。 9月30日完結。 お読みいただき、ありがとうございます! 24/10/7 中短編部門で1位を獲得しました! 初の1位に感無量です! みなさま本当にありがとうございます!!! 25/1/30 めちゃコミック×LScomic×魔法のiらんど漫画原作コンテスト 「エリート上司との偽装恋人」部門にて 佳作を受賞いたしました! ありがとうございます!
表紙を見る 表紙を閉じる
!!! 注意 !!! 作中には猫が出てきません。 作者の猫好きによる表紙詐欺です。 繰り返します。 作中に 猫は 出てきません!! 親友に裏切られて恋人を盗られ、会社を退職した彩羅(さら)。 失意の中、ネットで知り合った人物と会うことになる。 女性だと思った人物は、まさかの専務で!? しがないカフェ店員 × コンプレックス持ちのこわもて御曹司 イケメン店長に対抗心ばりばり。 思いがけずつながったふたりの運命の糸はからみあい……。 一話だけ大賞応募作「御曹司の秘密の趣味を知ったら溺愛されました!」を改題して長編化したものです。
表紙を見る 表紙を閉じる
双子の姉と母に虐げられている主人公。 ある日、姉の身代わりでお見合いに行かされ、姉として気に入られてこいと言われる。 姉はホストとデートに行く。 お見合いで会った深空迅(みそら・じん)に 「俺が助ける」 と言われる。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop