アルト、花火を体験する【アルトレコード】
 自分の浴衣なんて完全に思考の外だった。
「きっと綺麗だろうなあ。北斗も浴衣を着てくれるよね!」
 私は首をかしげる。

 北斗さん、どうするんだろう……。白衣姿ばかりを見ているから、浴衣姿が想像できない。頼んだとして、着てくれるだろうか。

 でも、自分が子供のとき、両親が一緒に浴衣を着てくれたのはうれしかった。
 北斗さんがどうするのかはわからないけど、私くらいは浴衣を着て一緒に行きたいな。私も久しぶりに着たいし。

「私も浴衣を用意するね。北斗さんがどうするかわからないけど、アルトの希望は伝えておくよ」
 北斗さんは花火が決まってから自分専用の研究室にこもっている。急ぎの案件があるらしい。当分、そちらには行かないように言われていて、用件はメールで伝えることになっている。

「ありがとう、先生! あ、ぼくからも北斗にメールしようっと!」
 アルトはわくわくした様子で画面から消えた。



 花火大会の当日、夕方。
 研究所近くの公園で待ち合わせていたため、私は浴衣を着てそこに向かった。

 浴衣は涼しいと言われているが、実際には暑い。確かに腕はすーすーするが、帯の当たりがちょっと歩いただけで汗だくだ。慣れない下駄が歩きにくい。

 待ち合わせは渋滞を見越して少し早めにしてある。基本的に公道を走るのは自動運転の(ビークル)がほとんどだから昔ほどの渋滞は起きない設計だが、それでもイベント時には渋滞が発生しがちだ。

 公園に到着してしばらくすると、一台の白いビークルが走って来た。
 目の前で止まったそれから降り立ったのは、端末を手にした北斗さんだ。なぜかいつもの黒い服に白衣を着ている。
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