アルト、花火を体験する【アルトレコード】
「君、お願いがあるんだけど」
 北斗さんは困ったような微笑で言い、私は内容を予想して顔をひきつらせた。

「俺は用事で遅れるから、アルトと先に行っていてくれないかな」
「……わかりました」
 予想に近い内容だった。てっきり、今日は行けないと言われるかと思った。遅れてでも来てくれるなら……でも、間に合うのだろうか。

「会場は広いですけど、場所はわかりますか?」
「端末のGPSで確認するから大丈夫。アルト、ちゃんと先生の言うことを聞いて大人しくするんだよ」
 北斗さんは手にした端末の中のアルトに話しかける。

 が、浴衣を着た彼はぶーっと不貞腐れて恨みがましく北斗を睨む。
「北斗も行くっていったのに」
「あとからちゃんと行くから」
 なだめるように言う北斗さんに、彼はむすっと唇を尖らせる。

「アルト、浴衣が似合ってるね」
 私が言うと、アルトは一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐにふくれっ面に戻った。

「機嫌をとっても無駄なんだからね!」
「……時間がもったいない。俺は戻るから、君はこのビークルで先に向かって」

「わかりました」
 私は端末を受け取ると、冷房の効いたビークルに乗り込んだ。研究所は近いから、北斗さんは歩いて帰れる。彼は花火会場に行く私のためにビークルで来てくれたのだろう。

「アルト、行くよ。目的地、花火大会の会場」
 自動運転のビークルに音声入力をして発進させる。
 アルトはむすっとしたまま返事をしてくれなかった。
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