君がくれた明日
残された僕




 

 

叶愛がいなくなって──

 

時間だけが、容赦なく流れていった

 

引っ越し予定だったあの部屋は
契約が白紙になった

 

仕事も、結局辞めた

 

 

朝目覚めても
隣に誰もいないベッドの中で
天井をずっと見つめてた

 

息を吸うのも苦しかった

 

 

コンビニに行くと
叶愛が好きだったスイーツが並んでいる

 

いつも「今日はこれにしよ!」って言いながら
俺に手を引かせたコーナー

 

それを見つけるたびに
胸の奥がえぐられる

 

 

帰り道
何気なくポケットに手を突っ込むと

 

叶愛が買ってくれた
小さなキーホルダーが指先に当たった

 

「……かなえ…」

 

声にならない声が漏れる

 

 

あんなに
一緒に未来を語ってたのに

 

あんなに
幸せだったのに

 

今はもう、俺しかいない

 

 

【*】

 

 

スマホを開くたびに
叶愛とのやり取りが消せずに残っている

 

全部、くだらない他愛のないやり取り

 

『今日は寒いねー』
『早く帰ってきて温めてね♡』
『ちはやくんお仕事お疲れ様!』
『明日もがんばろうね!』

 

その一つ一つが
今は凶器みたいに胸を刺してくる

 

 

消せなかった

 

消せるわけがなかった

 

 

未読のままの最後の通知は
もう二度と既読にはならない

 

 

【*】

 

 

ある夜──

 

気づいたら、叶愛の家の近くまで来ていた

 

いつも一緒に歩いたあの道

 

信号機の前に立った時
ふいにフラッシュバックが襲った

 

──叶愛は
ここで車に撥ねられたのだと

 

 

目の奥が熱くなった

 

立っていられなくなり
膝をついた

 

道路脇で嗚咽を堪えきれなくなって泣いた

 

「かなえ…っ」

 

「……会いたいよ……」

 

「戻ってきてよ…」

 

 

闇夜の中
誰もいないはずの風が、頬を撫でた

 

まるで叶愛の手のように

 

 

でも
現実は優しくなんかしてくれなかった

 

 

【*】

 

 

叶愛の部屋に、最後に置いてきた私物を整理しに行った日──

 

タンスの奥から
一冊のノートが出てきた

 

それは
叶愛がひそかに書いていた「未来ノート」だった

 

──表紙に、小さく【ちはやくんと私の未来】と書かれていた

 

 

ページをめくるたびに
涙が止まらなくなった

 

 

『二人で住む家の間取りはこんなのがいいな〜♡』
『子供が生まれたら、お揃いの服着せたい!』
『ちはやくんは絶対甘やかすタイプだと思う』
『毎日「好き」って言い合う生活がしたいな』
『ずっと手を繋いで生きていきたい』

 

 

夢は
どのページも叶わなくなった未来で埋め尽くされていた

 

 

俺は
そのノートを胸に抱きしめたまま、声を殺して泣き続けた

 

「……叶愛……」

 

「……こんなの…ズルいよ……」

 

 

未来は
全部、叶愛の中で完成してたのに

 

なのに
現実は、その未来を丸ごと奪っていった

 

 

【*】

 

 
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