溺愛の業火
辿り着く
どれくらい時間が経ったのかな。
ドアに近づく物音。
「篠崎、大丈夫か?」
清水くんの声がして、扉が開いたから安堵した。
入って来た彼の息は荒く、伝わるのは必死さ。
心配して来てくれたんだ。嬉しい。
縛られて不自由だけどなんとか立ち上がり、近づいた彼に解いて欲しいと、私の両手を見せたまでは予想の範囲内。
彼は、私の縛られた両手を数本の指で押さえて優位を示す。
本当なら、この状況は助かったはずなのに、危機感が増したような気がするのはどうしてだろう。
彼の怒りの矛先が誰に向かっているのか、理解に苦しむ。
元はと言えば、生徒会長のあなたが悪いのよ。人気がある自覚すらないのかしら。
あなたの好意が私を混乱に招いて、他の子たちからも妬まれるなんて。迷惑なのよ。
理不尽にも程がある。
私は縛られ、こんな所に閉じ込められたのだから。
あなたは責任を感じて、私を助けに来てくれたんだよね?
無言で睨みつける彼の表情から読み取れるのは、優しさではない。
「お礼はキスでいい。」
誰が原因で、こんなことになったのか理解しているくせに。
「嫌よ、付き合ってもいないのに。」
「俺は、そのつもりだけど?」
彼は私の鼻を持ち上げるように摘まみ、息継ぎ待ちで、顔を近づけてニヤリ。
指でかけていた圧力が緩まったかと思ったのも束の間。空いた方の手は、私の縛られた手首をしっかりと捕らえ直す。
私の背には壁で逃場はない。
悔しい。絶対に負けない。もう、これ以上は流されるわけにはいかないから。
そう固く口を閉ざすけれど、息苦しくて体がプルプル震える。