溺愛の業火
私の方に向き、黙ってうなずいた。
嫌な予感がする。
私は席を立ち、座っている松沢くんを見下ろした。
退いて欲しいのに。
「行って、どうするの?」
優しい松沢くんが初めて見せた冷たい視線。
行ってどうするのか、私の応え次第では動かないような雰囲気。
一気に巡る自分の考え。
清水くんが彼女に何を言うのか。もう、言った後?
それとも全く関係なく、居辛くなっただけ?
「分からない。だた、追いかけないといけないような気がする。」
私の返事に松沢くんは、ため息。
「この作業は、任せて。手伝ってくれる人を呼ぶから。」
そう言いながら立ち上がって、私に道を譲ってくれる。
「ありがとう。」
私は歩調を早め、教室を出た。
廊下に清水くんの姿はない。
見つからなければ、戻って作業を再開すればいい。
思い当たるのは、あの準備室。
その部屋に辿り着いた私は、ドアに手を伸ばした。
すると手首が掴まれ、口も塞がれて。
湧き上がるのは恐怖。
「し。静かに。」
耳に入ったのは清水くんの声。
嫌悪感は消えて、安心したけれど。
後ろからの力に逆らえず、引きずられる様に移動して行く。
部屋の向こう側にある階段。
口から手が離れ、目が合った。
「移動しよう。」
小さな声で、階上を指さして歩き出す。
その背中を見つめ、後に付いて行く。
向かった先は生徒会室。
中には誰もいない。
机の上は整理され、清水くんの仕事の効率を物語るようだ。
「篠崎。」
名を呼ばれて目を向けると、思ったより距離が近かった清水くんに戸惑う。
逃げ腰なのを見抜いたのか、彼は私の手首を捕らえた。