溺愛の業火
続・溺愛の業火

『まだ』


『まだ、そんな関係じゃない』
周りに言ったのは、本当の事。

学校からの帰り道、ゆっくり歩きながら今日の出来事を話している一颯(いぶき)くん。
主に松沢くんの不満だろうか。結局、仲が良いんだね。

「俺は怒っているのに。和叶(わかな)は何で、笑っているの?」

しまった。機嫌を損ねてしまったかな。

「あ、家に着いた。ありがとう。」

癖になったのか、つい逃げ腰。
そんな私に彼は無言で圧力をかける。

「あの、寄って行く?」

彼は意外だったのか、表情が固まり一瞬の間。
少し視線を逸らして答える。

「うん。」

平静を装っているけど、口もとが少し緩んでいるような気がする。
可愛いな。笑みがもれてしまう。

「上がって。両親はいないから、気兼ねしないで大丈夫だよ。」

自分の部屋に案内して入るように促したけれど、入り口に立ち尽くす一颯くん。
表情が読めない。

「入って。私、飲み物取って来るから。」

半ば強引に押し込め、台所へと向かった。

どうしたのだろうか。
嬉しそうに見えたのは気のせいで、迷惑だったのかな。

少し話をすれば、松沢くんの件も誤解は解けるだろうし。
まさか緊張しているのかな。


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