溺愛の業火

『望み:side和叶』

『望み:side和叶』


私が好きだと知っているから余裕なのかな。何だか悔しい。
意地悪で優しくて、強引で大切にしての繰り返し。

愛情が欲しいのは私のほうなのに。
私の優しさに付け込むように甘えてくる。

私の気持ちなんて、何も知らない。
そうね、私はあなたに甘えてはいない。言ってもいないから。

あなたの突き放すような優しさで、物足りないなんて。
素直に言えるなら、言えたなら。
今の状況は、もう少し変わっていたかもしれない。

『俺の事を好きだよね』
「好き。」

『何でもするから甘えて』
「もっと触れて欲しい。」

自分の表情なんか分からない。
恥ずかしさから逸らしていた視線は、今は捕らえられたように真っ直ぐ見つめて。

信じられない程、簡単に出てしまう甘い声。
自分が覆るような感覚。

彼の両手が頬を緩やかに撫でる。
彼は指で私の唇を押さえ、もう片方の手は髪をかき上げるようにして耳に触れた。

目を閉じた一颯くんの顔が近づいて、私の鼻筋を唇が滑る。
自分から顔を上げ、唇から彼の指が離れて。

軽く重なる口づけ。
自分から望んだように、彼を導く様な仕草だった。

甘えるから触れて欲しい。
もっと愛情を。

貪欲になって、溺れた末路。




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