溺愛の業火
「何があったの?」
顔を覗き込んで尋ねると、一颯は顔を上げて。
視線を合わせ。
「好きだ。」
見つめたまま、私は戸惑ってしまう。
何があったのかを尋ねたはずなのに、返って来たのは思ってもいない言葉。
聞いては駄目なのかと言葉に詰まってしまう。
すると一颯から、ため息が漏れた。
頑なに何があったのか告げようとしない。
ただ私に甘えるように、重みをかけてくる。
「……このままでいて。」
弱々しい声に、胸が苦しくなって、自分に何ができるのだろうかと。
彼の頭を撫でようと手を伸ばす。
そんな油断した自分の背中に、触れる冷たい手。
体が跳ねた。
「あっ。あの、これ以上は……その。」
あまり強くは拒絶できないけれど、少しの抵抗。
それに対し、彼は抱きしめる力を少し加え、顔を私の胸元にうずめて呟く。
「嫌だ。逃げないで。」
片手で倒れないように自分を支え。
前に流された時の記憶が、今の現状に警鐘を鳴らす。
「そう思うなら、逃げたくなることをしないで。」