素顔は秘密ーわたしだけのメガネくんー
ー別にバレてもいいけどー
体育祭が終わって数日後
教室の空気はどこかまだ余韻を引きずっていた
「借り物競走、結構盛り上がったよね〜」
「好きな人引いて…まさか葵くん連れてくるとは思わなかったわ」
「え、七海ちゃん好きなのってほんとに葵くん?告白とかしてんの?」
女子グループの会話が
自然と耳に入ってくる
七海は内心ドキドキしながらも
必死に平静を装っていた
「ち、違うよ、たまたまだってば!」
「えー?ほんとぉ?」
友達はニヤニヤしている
(……ほんと、バレそうで怖い…)
でも
まだ”正式には”誰にも言ってない
一応、表面上は
ただのクラスメイトのまま
ーーけど、実際は
放課後になると
いつもの裏庭で
「七海」
葵が甘く低い”俺”の声で呼びかけてくる
「……今日はちょっと危なかったな」
「ね、ね…結構みんなに怪しまれてる気がするんだけど…」
七海が小声でそう言うと
葵はゆっくりと微笑んだ
「別にバレたっていいけど?」
その一言に心臓が跳ねる
「だ、ダメだよ!今さらそんな…!」
「ふふ…冗談だよ」
そう言いながらも
彼の目は全然冗談じゃない色をしている
「けどまあ…」
七海の腰をそっと引き寄せながら
耳元で低く囁く
「本当は…俺の彼女だって言いふらしたくて仕方ねぇけどな」
ドクンッ
「……そ、そういうの、ずるい…!」
彼は軽く笑いながら
額にキスを落とす
「我慢してる俺、偉いだろ?」
「も、もう…!」
七海の顔は真っ赤になったままだった
***
そして放課後、少し遅れて帰るふたりを
校門の陰からこっそり覗いていた女子たちがいた
「ねぇ…やっぱあのふたり怪しくない?」
「だよね〜!なんか最近、距離近くない?」
「ほら、さっきもちょっと手触れてなかった?」
「…でも、ふたりとも全然言わないんだよね」
静かに広がっていく”まだ確定はしていない噂”
でも
当のふたりは、その秘密感すら楽しむように
静かに歩いていた
七海は
隣を歩く葵の手が、そっと指先だけ触れてくるたびに
ドキドキを噛み殺すのがやっとだった
「なあ、七海」
「なに…?」
「……今度の文化祭、俺と一緒に回ろうぜ」
突然の誘いに七海は目を丸くした
「え…でも、それって…目立っちゃうよ?」
「だからいいんだよ」
彼は少しニヤッと笑った
「……たまには、わかりやすく独占してもいいだろ?」
心臓の鼓動が、また一段強くなった
(やばい…ほんとにもう、この人に勝てない…)
七海は
ますます彼に溺れていくのを感じていた