クマとナデシコ 博堂会次期若頭候補の熊井宗一郎は撫子さんの愛が欲しい
酔うほど飲んだわけではない。なのに先にメインバスルームの湯船に入らせて貰った撫子は胸のあたりがふわふわとした不思議な感覚に包まれていた。ベッドを共にしようとわりと明け透けに言ったのは自分だし、宗一郎も承諾した。
自分たちは既に何回か体を重ねた仲で、何も不都合などない。
寝間着や下着は寝る時用の素朴な物を持って来たが地味すぎやしないだろうかとか色々考えてしまう。
(ああもう、ぐるぐるしてきた……上がろ……)
ざぷん、と湯船から上がった撫子は大きく息を吸って深呼吸をする。
お試し同棲一日目にしてこうなるとは思いもしなかった。それに昨夜の宗一郎は『ドキドキして』眠れなかったらしい。
自分は疲れていて途中まではぐっすりで、少しだけ早く起きた感じだった。
風呂から上がり、スキンケアをしたり髪を乾かしたり。いつもと変わらない寝る支度をしているようで今夜は違う。
でも結局、何をしたら正解なのかは分からない。そもそも正解なんてあるのだろうか。
「ね、宗君の部屋で待ってていい?」
撫子はコットンのワンピースタイプの寝間着で脱衣所から出て来たが夕飯の片付けをし終えてソファーに座り、ひと息ついていた宗一郎は彼女の発言に目を丸くさせてとりあえず深く頷く。
こんなに積極的な撫子は未だかつて見た事がない。普段は社会人としてリードをしてくれていたがソレとコレとじゃ話が違い過ぎる。
既に自分の着替えのセットを用意していた宗一郎はそそくさとそれらを抱えてお風呂に向かう。そんな彼を見送った撫子は自分のスマートフォンだけを持ってメインベッドルームの方へと行き、とりあえずベッドの上に足を崩して座った。
少しだけ、宗一郎の香水の匂いがする。
愛欲と言うものは早くに枯れている気がしていたが……どうなんだろうか。相手がいて成り立つ感情の揺れにスマートフォンを手にしたままずるりと横になってしまった撫子はメールやメッセージのチェックをして一人の時間を過ごす。しかし宗一郎は思ったよりも早く、未使用のバスタオルを抱えて風呂から上がって来てしまった。
そんな彼に撫子も慌てて起き上がろうとしたのだが宗一郎は手にしていたタオルを傍らに置き、彼女の寝間着のワンピースの裾を膝で踏む。そしてそのまま、撫子の体はベッドに押し付けられた。
手にしていたスマートフォンは転がり落ち、宗一郎の手によって安全な頭上のヘッドボードへと置かれてしまう。
彼の体の重さを、久しぶりに思い知らされる。
「撫子さん、キスしていい?」
大きな体に跨られ、反射的に撫子は両膝をぐっと閉じてしまえばお風呂で温まったのではない宗一郎の滾る熱を足で感じる。
多分、彼は風呂に入ってる時点で……。
律儀に聞いて来る宗一郎に小さく頷いたのとほぼ同時に腰が浮く。背中に片手を回した宗一郎に掬われるように抱きすくめられ、唇がすりすりとあたる。暫くは頬擦りをされたり首筋も甘噛みされていたが甘いくすぐったさは過ぎ、気が付けばまるで食われるようなキスに変わっていた。
「んく、んんっ……ん」
くぐもる喘ぎ声が宗一郎に飲まれる。
「は、はは……やっぱりあっつい、や」
湯上り、黒の半袖のストレッチシャツを着ていた宗一郎はそれを脱ぎ捨ててしまう。興奮して血流が増えているからなのかパンプアップと言うやつなのか、何か……大きい。
「そ、うくん、待って」
「待てないって言ったら」
添い寝の体勢になった宗一郎がぐっ、と撫子の太ももに手を掛けた。
――宗一郎が、何かおかしい。
こんな性急なことをする男だったろうか。
けれどそれを考える間を与えてくれない。
「撫子さん、すべすべしてる……」
さわり心地を口にされてこんなに恥ずかしくなったこと、今までにない。
「や、ちょっと、宗くん」
「緊張をほぐす為にマッサージしましょうか?俺、撫子さんにはちゃんと気持ちよくなって欲しくて」
宗一郎の言葉に何も返す事が出来ない撫子は揉まれる快楽と紙一重の心地よさに身悶え、口もとに手をあてながらどうにかやり過ごす。
「ああ……気持ちよさそうな撫子さん見てたら……ふふ、でも……ね、まだ全然、これからだから……」
彼の手は自分より大きいし、指も太い。
デリケートな部分の清潔を保つために触れる自分の手なんか比じゃないくらい、圧倒的な彼の肉感に体が勝手に逃げてしまう。
「ちゃんとしないと撫子さんの事を傷つけちゃうから……ね?」
逃げないで、と耳元で囁かれた。
その途端にぞくぞくぞく、と感じていない“フリ”をしていた体に快楽が駆け抜けて……。
撫子の体の反応に気がつきながらも宗一郎の太い指はまだ、撫子の太ももや腰回りを丹念にほぐす。
「撫子さんはカッコよくて、綺麗で、すぐ気持ちよくなっちゃう人……ふふふ、かわいい。好き、大好き」
んぐ、と撫子から変な声が出てもお構いなしに宗一郎はまたキスをしてくる。しかし何となく、我慢の限界が近付いている事に撫子も気づいていた。繋がり合いたい、の気持ちと体格差のある女性の身を傷つけないようにとの理性の狭間。感情を言葉にして出してしまわないと早々に別のモノが込み上げてしまいそうなのだろうか。