クマとナデシコ 博堂会次期若頭候補の熊井宗一郎は撫子さんの愛が欲しい

 今日は午後の買い出しを終えてからずっと夕飯の支度をしていた撫子。宗一郎は手伝いたそうにしていたが疲れているだろうから、とアイスコーヒーを出しながらリビングの方へ座らせておく。そんな彼はちょうど乾燥が終わっていた洗濯機から洗濯物を取り出してきてソファーに座って畳もうとしていた。

 「俺、最初は全部クリーニングとか洗濯代行に頼んじゃっても、と思っていたんです。その方が撫子さんの負担にならないかなって。でも……良いですね、こう言うのも」

 宗一郎が畳んでいるのは撫子の寝間着のコットンワンピース。自らのスウェットズボンやらお洒落着ではないちょっとした服などもある。

 「そう言う所は臨機応変に使おっか」
 「ええ。無理のない範囲で……って俺、すっかり撫子さんと一緒に住むこと前提で」
 「そのことなんだけど、さ。宗君、この部屋どう思う?」
 「え、ってことはまさか」
 「最新のセキュリティに都心部のさらにど真ん中。各種アクセスも最高だし中層マンションだからエレベーター移動もそれほど苦じゃない。なによりもう、しっかり住んじゃってるし」

 撫子が言いたい事が分かった宗一郎は部屋を見回す。
 体の大きい自分でも窮屈することなく住んでいる現状。プライベートルームも各自、確保されている。撫子も表の仕事があるので日中は空けている時間の方が多いがこの物件、二人でくつろぐ為の場所としてなら申し分ない。

 「博堂の持ち物ならどうにでもなるから。家具とかもお父さんたちには私たちへの落とし前としてどうにかさせるし」
 「落とし前……撫子さんらしいなあ。俺よりヤクザかも」
 「そう?これでも龍堂の娘だからね」

 ふふふ、と笑う撫子につられて宗一郎も笑うがちょうど彼の手元には撫子のおうち用下着が入った洗濯ネットが一つ。
 あ、と思った宗一郎はそれだけは開かず、既に畳んである寝間着の上に置いておく。ぽんぽん、と慣れた手つきで洗濯物を畳む宗一郎は撫子がダイニングテーブルに夕飯を並べ始めると残りもきちんと畳み、それぞれの部屋に持って行った足でキッチンへと向かった。

 「ねえ宗君」
 「はい?」
 「あんまり無理しなくても大丈夫よ?手伝おうとしてくれる気持ちだけでも私はじゅ、」

 むぎゅう。
 それ以上は言わせないから、の宗一郎の行動だった。
 こうして抱き締めてしまえば撫子は黙ってしまうと分かっていて……苦しい、と腰をタップされた宗一郎が慌てて離せば撫子の頬は赤かった。

 「こうしちゃえば私が何も言えなくなるって……宗君、味を占めたでしょ」
 「ん?どうでしょう。撫子さんは考えすぎちゃうところがあるからなー」

 やはりしっかり見抜かれている。
 今どき『許婚』と言う形で付き合って来たがあと一歩を踏み出せずにいた撫子。しかし彼女は変わった。そんな一人の女性を見る宗一郎の眼差しは優しい。

 「でもそれは撫子さんの……あなたの一番素敵なところですよ。俺みたいな猪突猛進とは違う思慮深い素敵な女性だなって」
 「なんか、すごい良いこと言われて……る?」
 「もっとすごいこと、言っちゃいましょうか」

 身を屈めてこしょ、と撫子の耳元でささやいた「俺、実はお菓子を食べたいくらいにお腹空いてるんです」の言葉。

 「ふ、っくく。そんな、早く言ってよ」
 「いやあまだ明るいですし、明るい内からメシにしてもなあって」
 「食べよ。それでお風呂入ってー……ふふっ」

 艶のある笑みに変わった撫子に宗一郎はぴく、と反応する。大人の女性の余裕と言うものだろうか。
 まあでも大体、彼女の素敵な大人の仕草もベッドの中ではぐずぐずに崩れてしまうわけで。それはそれでとても魅力的だった。

 ・・・

 のんびりとした夕飯を済ませ、お風呂も済ませて。
 宣戦布告の通りに撫子はベッドの上で宗一郎にのしかかられながらちゅ、ちゅ、と短いキスを交わしていた。
 愛情に既に腫れあがっている彼の熱が時々、故意に体に擦り付けられているが感じている宗一郎につられて撫子も吐息が甘くなっていた。

 「そ、くん……そうくん」

 そんな彼女の舌足らずな声に宗一郎は煽られる。

 「すきよ。だいす、き……っ」
 「俺も……ふふ、撫子さん頬っぺたが真っ赤」

 撫子は心の中で覚悟をしていた。今夜は多分、どうにかなってしまうまで宗一郎は寝かせてくれない。
 受けて立とうじゃないか、と言う撫子なりの気の強さもすでに彼の情熱でとろとろと溶けだし、胸に触れる大きな手はマッサージをしてくれているような感覚で気持ち良かった。エステなどでは得られない、信頼をしているパートナーが丁寧に触れてくれることの意味を含め、心地いい。

 「も、っと」
 「ん……気持ち良いですか?」

 うん、と頷く撫子に宗一郎も若干、マッサージ寄りの手つきに変わる。

 「でもね、撫子さんのここ……可愛いなあ」

 しみじみ言う宗一郎が寄せた胸を撫でまわせば今までよりもずっと、痺れるような快感が足先、手の爪の先まで走った。
 優しく脇から胸を掬い上げ、大きな手のひらの全体で触れられていると意識がふわふわと軽くなってくる。

 「ああ、くたくたになっちゃった」

 枕に引っ掛けていた指先にも力が入らず、宗一郎が一度体勢を整える頃には撫子も自身でも分かるくらいに大切な所は切なくなっていた。

 「今夜は全部、俺に任せて」

 くすぐりあやすような言葉は甘くて優しい。次の愛撫に移る前にも宗一郎はキスを沢山して、撫子の足を緩く開かせながらも羞恥心を和らげさせてくれる。

 「力を抜いて」

 彼から与えられる心地よさを含む快楽に自然と瞼を閉じていた撫子はふいに宗一郎の表情を見てしまった。

 「……っ」
 「撫子さん?」

 そこには心の底から自分を愛してくれている男の表情があった。

 「んっ、く」

 歯を食い縛ろうとしても遅い。
 眉尻を落とし、目を細め、きっと誰にも見せた事の無い顔をしている宗一郎に“色々と”撫子は込み上げて来てしまう。
 それからしばらく、女性の体をいたわるような指先で撫子と夜を過ごす準備をしていた宗一郎の体温がふっと離れる。彼が何をしているかなんて頭を起こさなくても分かる。宗一郎ももう、熱情が限界なのかもしれない。

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