血でつながる恋がある〜この痛みごと、好きだと思った〜
3話 不穏な雰囲気
モヤモヤした気持ちが晴れた私達は、以前と同じように会話をするようになった。
時々恥ずかしくなって、ゼアルを直視できない日もあったけど、それでも会えるのが嬉しかった。
ある日、いつものように血を提供したあと、私はふとゼアルの顔を見つめた。なんとなく顔色が悪い気がする。
「……ゼアル、また体調悪いの?」
「え?」
少し驚いたように目を瞬かせたあと、ゼアルは微笑んだ。
「いや、大丈夫。ちょっと寝不足なだけだ」
そう言ってごまかすように視線をそらしたけれど、その笑顔はどこか無理をしているように見えた。
ある日、血液提供の後、ゼアルはじっと私の手を見つめた。
指先がほんのり赤い。けれどそれを拭おうとはせず、ただ黙っている。
「……どうかした?」
私の問いに、ゼアルは静かに口を開いた。
「リィス。この前、俺……“それだけじゃない関係を目指したい”って言ったよな?」
「うん……覚えてる」
ゼアルの声が低く震えていたせいか、ドキン、と胸が跳ねる。
「その気持ちが、日々、大きくなってきてる。自分でも抑えるのが難しいぐらいに……」
ゼアルの赤い瞳が、熱を帯びて私を射抜く。
でも、それは血への渇きだけじゃないように見えた。違うと、信じたい。
「なぁ、リィス。触れてもいいか……?」
「っ!?」
抑えてはいるけれど、甘ったるい声で言われて、体と心臓がビクンと跳ねた。
私は唇を噛んで、視線を落とす。
怖いわけじゃない――そう思いたい。でも、心の奥がざわついていた。
何かが違う。ゼアルの瞳が、いつもより紅く、深く揺れている気がした。
「……ごめん、ちょっと……怖い、かも」
そう言った瞬間、ゼアルの表情がわずかに歪んだ。
「そっか……わかった」
少しの間を置いて、低く絞り出すように言う。
「なら、俺には……触れないようにしてくれ。そうでもしないと、俺は……止まれなくなる」
その声は苦しげで、自分を責めるようで。
私の胸の奥が、ぎゅっと痛くなった。
再びモヤモヤとした日々が続き、十日目の訪問。
いつも通り提供を終えて、アゼルがテキパキと片付けを始める。
しかし、ふとした拍子に机の上にあった書類がフワリと風に乗り、床に落ちた。
「あっ」
咄嗟に私は拾おうと手を伸ばして――同じように手を伸ばしてきたゼアルに触れてしまう。
その瞬間、ゼアルの目がさらに紅く、深く、獣のように変わったのが分かった。
しまった、と思った時にはもう遅かった。
戸惑いながら一歩下がろうとした私を、ゼアルの腕が一瞬で引き寄せた。
「っ……!」
気づけば、強く抱きしめられていた。体が熱い。心臓が痛いほど跳ねる。
「ご、ごめんっ! ごめんね、ゼアル! 私、気をつけてたのにっ……!」
声が震える。怖いというより、私がゼアルを苦しめてしまったことが申し訳なかった。
「……そう、だよな……」
ゼアルの腕に力が入る。でも、それはほんの一瞬だった。
「……怖い思いさせたな、リィス」
ゼアルの手が、ゆっくりと私の背から離れていく。 距離が戻る。
けれど、その瞳は寂しそうで、どこか自分を責めるようだった。
「ゼアル……」
「俺のほうこそ、気をつける。だから……次は、リィスが本当に望んでくれるまで、俺は、手を出さない」
静かなその声が、胸に刺さる。
私は何か言いたかったけれど、うまく言葉にできなかった。
沈黙のまま帰り支度をして、私は玄関で靴を履く。
「じゃあ、また……来るね」
いつも通りの別れの言葉。だけど、返ってきた言葉は違っていた。
「いや、しばらく来なくて大丈夫だ」
「え……?」
思わず顔を上げる。ゼアルは目を合わせようとせず、背中を向けたまま言った。
「けっこう提供してもらってるからな。まだストックはある。
それに、リィスも……休みたいだろ?」
「で、でも……」
「また、必要になったら連絡するから。さあ、今日は帰りなよ」
優しい言い方だった。でもそれが、かえって胸に沁みて痛かった。
私は小さく頷いて、ゼアルの家を後にした。
時々恥ずかしくなって、ゼアルを直視できない日もあったけど、それでも会えるのが嬉しかった。
ある日、いつものように血を提供したあと、私はふとゼアルの顔を見つめた。なんとなく顔色が悪い気がする。
「……ゼアル、また体調悪いの?」
「え?」
少し驚いたように目を瞬かせたあと、ゼアルは微笑んだ。
「いや、大丈夫。ちょっと寝不足なだけだ」
そう言ってごまかすように視線をそらしたけれど、その笑顔はどこか無理をしているように見えた。
ある日、血液提供の後、ゼアルはじっと私の手を見つめた。
指先がほんのり赤い。けれどそれを拭おうとはせず、ただ黙っている。
「……どうかした?」
私の問いに、ゼアルは静かに口を開いた。
「リィス。この前、俺……“それだけじゃない関係を目指したい”って言ったよな?」
「うん……覚えてる」
ゼアルの声が低く震えていたせいか、ドキン、と胸が跳ねる。
「その気持ちが、日々、大きくなってきてる。自分でも抑えるのが難しいぐらいに……」
ゼアルの赤い瞳が、熱を帯びて私を射抜く。
でも、それは血への渇きだけじゃないように見えた。違うと、信じたい。
「なぁ、リィス。触れてもいいか……?」
「っ!?」
抑えてはいるけれど、甘ったるい声で言われて、体と心臓がビクンと跳ねた。
私は唇を噛んで、視線を落とす。
怖いわけじゃない――そう思いたい。でも、心の奥がざわついていた。
何かが違う。ゼアルの瞳が、いつもより紅く、深く揺れている気がした。
「……ごめん、ちょっと……怖い、かも」
そう言った瞬間、ゼアルの表情がわずかに歪んだ。
「そっか……わかった」
少しの間を置いて、低く絞り出すように言う。
「なら、俺には……触れないようにしてくれ。そうでもしないと、俺は……止まれなくなる」
その声は苦しげで、自分を責めるようで。
私の胸の奥が、ぎゅっと痛くなった。
再びモヤモヤとした日々が続き、十日目の訪問。
いつも通り提供を終えて、アゼルがテキパキと片付けを始める。
しかし、ふとした拍子に机の上にあった書類がフワリと風に乗り、床に落ちた。
「あっ」
咄嗟に私は拾おうと手を伸ばして――同じように手を伸ばしてきたゼアルに触れてしまう。
その瞬間、ゼアルの目がさらに紅く、深く、獣のように変わったのが分かった。
しまった、と思った時にはもう遅かった。
戸惑いながら一歩下がろうとした私を、ゼアルの腕が一瞬で引き寄せた。
「っ……!」
気づけば、強く抱きしめられていた。体が熱い。心臓が痛いほど跳ねる。
「ご、ごめんっ! ごめんね、ゼアル! 私、気をつけてたのにっ……!」
声が震える。怖いというより、私がゼアルを苦しめてしまったことが申し訳なかった。
「……そう、だよな……」
ゼアルの腕に力が入る。でも、それはほんの一瞬だった。
「……怖い思いさせたな、リィス」
ゼアルの手が、ゆっくりと私の背から離れていく。 距離が戻る。
けれど、その瞳は寂しそうで、どこか自分を責めるようだった。
「ゼアル……」
「俺のほうこそ、気をつける。だから……次は、リィスが本当に望んでくれるまで、俺は、手を出さない」
静かなその声が、胸に刺さる。
私は何か言いたかったけれど、うまく言葉にできなかった。
沈黙のまま帰り支度をして、私は玄関で靴を履く。
「じゃあ、また……来るね」
いつも通りの別れの言葉。だけど、返ってきた言葉は違っていた。
「いや、しばらく来なくて大丈夫だ」
「え……?」
思わず顔を上げる。ゼアルは目を合わせようとせず、背中を向けたまま言った。
「けっこう提供してもらってるからな。まだストックはある。
それに、リィスも……休みたいだろ?」
「で、でも……」
「また、必要になったら連絡するから。さあ、今日は帰りなよ」
優しい言い方だった。でもそれが、かえって胸に沁みて痛かった。
私は小さく頷いて、ゼアルの家を後にした。