血でつながる恋がある〜この痛みごと、好きだと思った〜
4話 ようやく気づいた気持ち
ゼアルに「しばらく来なくていい」と言われてから、数日が経った。
部屋の窓から見える風景は、以前と何も変わっていないのに。
胸の奥に空いた穴だけが、日に日に大きくなっていくような気がした。
最初は、少し休めると思った。
けれど、あの日以来どこか落ち着かなくて、本を読んでいても頭に入らない。
目が覚めたとき、最初に浮かぶのはゼアルの顔。夜になると、ふと呼ばれるような気がして扉を見てしまう。
「……なんで、こんなに気になるんだろう……」
口に出しても、答えは出ない。
家にいても落ち着かないので、外の空気を吸うことにした。
気晴らしに、と出かけた街の空は、やけに青かった。 目的もなく歩き回って、気づけば何度も来たことのある雑貨屋の前で足が止まっていた。
カラン、と扉を開けると、奥から店主のおばちゃんが顔を出す。
「あら、リィスちゃん。珍しいわね」
「うん、ちょっと散歩のついでに……」
そう言いながら棚の小物に目をやる。でも、気はどこか上の空で、選んでいるふりしかできなかった。
「ふぅん……ねえ、リィスちゃん?」
不意に声をかけられ、顔を上げると、おばちゃんはじっとこちらを見ていた。
「な、なに?」
「悩み事?」
「えっ……いや、そんなことは……」
「顔に出てるわよ」
そう言ってにこりと笑うおばちゃんの目は、どこか見透かすようだった。
「おばちゃんでよかったら、聞くわよ? 話すだけでも、ちょっとは楽になるものよ」
その優しい言葉に、胸の奥がちくりと痛んだ。
「……別に、悩んでるってわけじゃ……。ただ……」
言葉が詰まる。けれど、おばちゃんは急かさずに待っていてくれる。
「……会えなくて、寂しいだけ。……それだけ、だと思ってたのに」
ぽつりとこぼした言葉が、自分の中の何かを崩していく。
「でも、顔が浮かんで……声が聞きたくなって……。なんでこんなに、気になるんだろうって」
ごまかしようのない気持ちが、言葉になっていくたび、胸の奥が熱くなる。 ふと、おばちゃんが口を挟んだ。
「リィスちゃん、それ、恋ってやつじゃないのかい?」
「恋?」
「そうさ。相手が目の前にいないときでも、ずうっと相手のことを考えてる。アタシなんかねぇ――」
昔話を始めたおばちゃんの声を聞き流す。
頭の中では、"恋"という言葉がグルグル回っていた。
「私、ゼアルのこと……」
自分の口から名前が出た瞬間、もう戻れない気がした。
「……好き、なのかな……」
口に出したら、空気が変わった。今まで解けなかった謎が解けたような、清々しい解放感。
「あ、あの、おばちゃん!」
「それでアタシは――ん?なんだい、リィスちゃん」
「わ、私、やっぱり、恋してるみたい」
そう言い切るとおばちゃんは満面の笑みを浮かべる。
「はははっ!そうかいそうかい!それはいいじゃないか!」
「ど、どうしたらいいの?考えれば考えるほど、会いたくなっちゃって……」
「なら、気持ちが変わらない内に突撃さ!」
おばちゃんはキリッとした顔で、自分の胸を軽く叩いた。
「わ、わかった!おばちゃん、ありがとう!」
「どうってことないさ!行っておいで!」
早口でおばちゃんにお礼を言うと、居ても立っても居られなくなって、店を飛び出した。
部屋の窓から見える風景は、以前と何も変わっていないのに。
胸の奥に空いた穴だけが、日に日に大きくなっていくような気がした。
最初は、少し休めると思った。
けれど、あの日以来どこか落ち着かなくて、本を読んでいても頭に入らない。
目が覚めたとき、最初に浮かぶのはゼアルの顔。夜になると、ふと呼ばれるような気がして扉を見てしまう。
「……なんで、こんなに気になるんだろう……」
口に出しても、答えは出ない。
家にいても落ち着かないので、外の空気を吸うことにした。
気晴らしに、と出かけた街の空は、やけに青かった。 目的もなく歩き回って、気づけば何度も来たことのある雑貨屋の前で足が止まっていた。
カラン、と扉を開けると、奥から店主のおばちゃんが顔を出す。
「あら、リィスちゃん。珍しいわね」
「うん、ちょっと散歩のついでに……」
そう言いながら棚の小物に目をやる。でも、気はどこか上の空で、選んでいるふりしかできなかった。
「ふぅん……ねえ、リィスちゃん?」
不意に声をかけられ、顔を上げると、おばちゃんはじっとこちらを見ていた。
「な、なに?」
「悩み事?」
「えっ……いや、そんなことは……」
「顔に出てるわよ」
そう言ってにこりと笑うおばちゃんの目は、どこか見透かすようだった。
「おばちゃんでよかったら、聞くわよ? 話すだけでも、ちょっとは楽になるものよ」
その優しい言葉に、胸の奥がちくりと痛んだ。
「……別に、悩んでるってわけじゃ……。ただ……」
言葉が詰まる。けれど、おばちゃんは急かさずに待っていてくれる。
「……会えなくて、寂しいだけ。……それだけ、だと思ってたのに」
ぽつりとこぼした言葉が、自分の中の何かを崩していく。
「でも、顔が浮かんで……声が聞きたくなって……。なんでこんなに、気になるんだろうって」
ごまかしようのない気持ちが、言葉になっていくたび、胸の奥が熱くなる。 ふと、おばちゃんが口を挟んだ。
「リィスちゃん、それ、恋ってやつじゃないのかい?」
「恋?」
「そうさ。相手が目の前にいないときでも、ずうっと相手のことを考えてる。アタシなんかねぇ――」
昔話を始めたおばちゃんの声を聞き流す。
頭の中では、"恋"という言葉がグルグル回っていた。
「私、ゼアルのこと……」
自分の口から名前が出た瞬間、もう戻れない気がした。
「……好き、なのかな……」
口に出したら、空気が変わった。今まで解けなかった謎が解けたような、清々しい解放感。
「あ、あの、おばちゃん!」
「それでアタシは――ん?なんだい、リィスちゃん」
「わ、私、やっぱり、恋してるみたい」
そう言い切るとおばちゃんは満面の笑みを浮かべる。
「はははっ!そうかいそうかい!それはいいじゃないか!」
「ど、どうしたらいいの?考えれば考えるほど、会いたくなっちゃって……」
「なら、気持ちが変わらない内に突撃さ!」
おばちゃんはキリッとした顔で、自分の胸を軽く叩いた。
「わ、わかった!おばちゃん、ありがとう!」
「どうってことないさ!行っておいで!」
早口でおばちゃんにお礼を言うと、居ても立っても居られなくなって、店を飛び出した。