クズ彼氏の甘く危険な呪縛
「よ、り……?」


顔を出したお母さんは、私と同じように目の下に濃いクマを作っていた。
きっと眠れていないのだろう。
意外なところで家族の接点を見つけて、微笑む。


「うん、ただいま」

「おかえり……っ」


そのままお母さんは私に駆け寄り、涙を浮かべて強く抱きしめてきた。
私も、母の肩に縋るように腕をまわし、小さく一筋、涙が頬を伝った。


――――――


落ち着いたころ、私たちはリビングで向かい合って座っていた。
湯気の立つあたたかいお茶が、冷えた指先をじんわりとあたためる。


「……あ、あれから、元気だった?」


お母さんのぎこちない問いかけに、私は「うん」とだけ答える。


「いろいろあったけど、大丈夫だよ」

「そっか……よかった」

「お母さんは……?

「私は……変わらない、かな」


私たちの間にはまだ、どうしようもなく深い溝がある。
だけど今日だけは、その距離を少しだけ埋めたかった。
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