クズ彼氏の甘く危険な呪縛

それでも、幸せだと

隣で寝ているレオの髪を、そっと撫でる。
目を覚ます気配のない彼の額に、唇を落として――


「いってきます」


その言葉だけを残して、最小限の荷物を持って家を出た。

電車を何本も乗り継いで、降り立ったのは数年ぶりの重たい空気の実家。
時間が経っても手放せなかった合鍵を差し込むと、懐かしい音を立ててドアが開いた。

相変わらず、父の靴はない。
玄関には、卒業式の日に母が履いていたヒールだけが、雑に転がっていた。
時が止まったままのようなその光景に、胸がぎゅっとなる。


「……ただいま」


小さく呟いても、返事はない。
わかってる。お母さんはきっと、今もあの部屋にいる。
変わらないようで、少しだけ埃の被った我が家の空気の中、私は階段をゆっくりと上がる。

お母さんの部屋の前で立ち止まり、いまさらになって心臓が跳ねる。
それでも覚悟を決めて、軽くノックした。


「……お母さん、ヨリだよ」


その瞬間、ガタガタッと中から物音がして、ガチャリと扉が開いた。
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