クズ彼氏の甘く危険な呪縛
現実の輪郭が急に濃くなる。


「れ、お……くん」


喉の奥からやっとのことで名前が漏れる。出しかけた言葉はただひとつ。


「ごめ――っ」


けど。


『謝ればなんとかなるって、ほんとに思ってんの?』

『なぁ。……つまんねぇ女』


――脳裏に焼きついて離れない。レオくんのあの冷たい声。軽蔑する目。吐き捨てるみたいに言われたあの言葉。

咄嗟に自分の口を両手で塞ぐ。これ以上嫌われたくない。嫌われるのが、怖い。

声も出せなくなって固まる私を見て、レオくんがゆっくり近づき、袋をテーブルの上に置いた。
数秒の沈黙のあと、無言のまま袋の中に手を突っ込む。


「調子は?」


そう言いながら、くしゃりと音を立ててビニール袋の中から水のペットボトルを取り出す。
無造作にキャップをひねり、そのまま私の前へ差し出してきた。


「……飲め」

「ありがとう……」


差し出されたそれを見て、一口だけ口に含む。カラカラに乾いた口内が、冷たい水で満たされる。
そのまま隣に座り、頬杖をついて、じっ、とこちらを見るレオくんに慌てて答える。


「……だ、大丈夫だよ」


本当のことなんて何も言えない。変に黙っていればまた怒らせてしまう。――それだけが頭に残っていた。心配も、かけたくない。
震える声で言えば、ため息交じりに舌打ちを落とされた。
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