クズ彼氏の甘く危険な呪縛

夢にもなれなかった話

違和感に気づくより先に、“これは夢だ”という確信だけが、胸に落ちた。

だってレオが、優しく笑っていた。
隣には私がいて、レオはずっと私の方だけを見てくれていた。
仕事に出かける前、背中を丸めて靴を履くレオに「いってらっしゃい」と声をかけて、振り返って微笑むその顔がなんだかとても大人びていて、少しさびしさを感じた。

大きな手が頬を包み、顔が近づく。

不意に、小さな声がした。


「ぱぱー!ままー!」


舌足らずな声。
私とレオに似た子供が、笑いながら駆けてくる。

捕まえて抱きしめた。
温かくて、柔らかくて、まだミルクの香りがする。
なんて、愛おしいんだろう。

夢の中なのに、「愛してる」が全身から溢れ出すみたいだった。

レオがそっと私と子供を抱きしめる。
私は笑って、その体に身を寄せる。
何もかもが、ただ、満たされていた
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