幼馴染のその先へ

ーんだよそれー


「ほら、もう少し」

 

俺は美奈をゆっくりベッドまで運んで
そっとシーツの上に座らせた

 

「…ありがと」

 

美奈は俯いたまま、小さく礼を言った

 

看護の先生は他の生徒の対応で席を外してた
保健室には 俺と美奈の二人だけ

 

空気がやけに静かだった

 

 

「…ちょっと冷やせ」

 

そう言って
冷却パックを足にそっと当てた

 

「……」

 

美奈は黙ったまま

 

 

その沈黙に耐えきれなくなったのは
たぶん俺の方だった

 

「…さ」

 

「ん?」

 

「昨日さ」

 

「…」

 

「…どっか行ってたろ」

 

 

言った瞬間
美奈の指先がピクリと動いた

 

でも
すぐに小さく目を伏せたまま

 

「……別に」

 

それだけだった

 

 

その言葉に
胸の奥がズクンと痛んだ

 

「……そっか」

 

 

なんだよそれ

 

心の中で
ずっと唸るみたいに溜まってた言葉が

 

思わず口から零れた

 

「……んだよ、それ」

 

 

美奈が一瞬だけ顔を上げた

 

でも
何も言わなかった

 

 

俺はふっと目を逸らして立ち上がった

 

「…先戻るわ」

 

ドアの取っ手に手をかけて
振り返らずに続けた

 

「…休んどけよ」

 

 

ドアを開けて
廊下に出る瞬間

 

背中越しに

 

美奈のかすかな独り言が耳に届いた

 

「……バカ」

 

 

聞こえないフリをして
そのままドアを閉めた

 

 

廊下を歩く俺の胸の中は
さっきよりもっと苦しくなってた
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