幼馴染のその先へ

ーむかつくー

数日後




下校時間も終わりかけの頃

 

俺は部活の用事で昇降口に行こうと
廊下を歩いてた

 

そのとき
向こうから美奈が来てるのが見えた

 

お互い
気まずさと疲れが顔に出てたと思う

 

いつもなら
ここでなんとなく挨拶して
それで終わるはずだったのに――

 

 

たまたま
昇降口前でクラスの奴らが騒いでて
ぶつかりそうになった

 

その勢いで
俺と美奈は廊下の隅で肩をぶつけてしまった

 

「あ…ごめん…」

 

「…別に」

 

たったそれだけのやりとりなのに
お互いのイライラが一気に表に出てきた

 

 

「…何で避けんだよ」

 

思わず口を突いて出た

 

美奈は驚いた顔で俺を見た

 

「…え? …そっちこそじゃん」

 

「違う、俺は――」

 

「私だって…怜のこと待ってたのに…!迎えだって…」

 

「待ってたとか言うなら
なんで他のやつと一緒に飯なんか行くんだよ!」

 

つい声が大きくなった

 

周りが少しだけ静かになったのを感じながらも
もう止まれなかった

 

 

美奈も声を震わせて言い返す

 

「だって…だって怜が何も言ってくれないから…!」

 

「言わなくていいって言ったのお前だろ!」

 

「…だって、怖かったんだよ…!」

 

 
 

その顔を見るのは
正直しんどかった

 

 

「俺だって怖ぇよ」

 

「お前が俺以外といんの見るの、クソほど嫌だった」

 

 

美奈は唇を噛んで
一度視線を落とした

 

少しだけ沈黙が落ちる

 

 

俺は
今ならもう一歩踏み出せる気がしてた

 

けど――

 

「…やっぱり、今はやめよ」

 

先に美奈が小さく呟いた

 

「…ごめん 怜」

 

 

「……」

 

思わず拳を握りかけたけど
無理に引き止める言葉は出なかった

 

「…そっか」

 

絞り出すように
それだけ言った

 

 

お互いの距離は
たった数歩だけ近づいたように見えたけど

 

結局
またそっと元の場所に戻った

 

 

「…じゃあ帰るね」

 

美奈はそう言って背を向けた

 

俺は
その背中を見送るだけだった

 

 

“――まだ俺たち、噛み合わねぇな”

 

 

遠ざかる足音が
やけに耳に残った

 
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