幼馴染のその先へ
ー初めてー
「…帰ろ」
美奈が小さく言って、俺たちは並んで歩き出した
いつもみたいに隣を歩いてるのに
さっきまでの俺たちとは明らかに違う空気
お互い、意識しまくってるのがバレバレだった
沈黙が何度も流れて
けど今までの沈黙と違ってて
ドキドキと
照れが混じった、変な心地よさがあった
美奈の手が
そっと俺の指先に触れた瞬間
俺は迷わず、そっとその手を握った
「…っ」
美奈がピクッと肩を揺らす
「……ビビんなよ」
小声で笑い合ったあと
また黙って歩く
やがて人通りの少ない脇道へ入り
俺はゆっくり立ち止まった
「え…何?」
「…いや」
声が震えるのをごまかしながら
そっと美奈の顔に手を添える
「…もっと早く
お前とこうしたかった」
ゆっくり顔を近づけて
あと数センチ
お互い、目を閉じるタイミングも若干ズレて
ちょん…と
唇が軽く触れた瞬間――
美奈が思わずビクッと顔をそらした
「…っ、や、やっぱ無理…!」
「は…?」
「な、なんか…緊張しすぎてムリ!!
なんか今…自分が変な生き物になった気がする!恥ずかしすぎる!」
そう言いながら顔真っ赤にして俯いてる
俺は慌てて笑いそうになるのを必死に堪えた
「バカかよ…誰も変な生き物とか思ってねぇし」
「だって…目閉じたとき、頭ん中まっしろだったもん…」
「んだそれ 焦りすぎ」
美奈がまたチラっと顔を上げた
その顔は
恥ずかしさと笑いと嬉しさが全部混じってた
「やりなおし」
俺はそっと言って
今度は少しだけゆっくり顔を近づける
今度は美奈も目を逸らさず
ちゃんと目を閉じた
唇が柔らかく重なる
さっきの慌てたキスとは違って
短くて、でもしっかり重なったキス
「…ん」
離れた瞬間
美奈がふわっと微笑んだ
「…さっきより平気だった」
「…慣れていこうぜ、これから」
「……バカ」
照れた声でそう言いながら
美奈は俺の制服の袖をそっと掴んだ
俺も自然と指先に力を込めて
もう一度、彼女の手をしっかり握った
夕暮れの帰り道は
やっとちゃんと”付き合ってる”っていう実感をくれた気がした