月夜の砂漠に紅葉ひとひらⅡ【完】

現実の世界

修学旅行から帰って来て数日後。

光清は、あの本を図書室に返したと言った。

「そう……やっぱそうだよね。」

今さらながら、少し残念に思う。

「何かあった?」

「ううん。なんだか、もう一度だけ、読みたくなって……」

ラストのシーンを知っているのに、なぜこんなにも、後ろ髪を引かれるのか。

「紅葉。あの本はもう読まない方がいい。」

「どうして?」

「あの本を見つけてから、紅葉はおかしくなった。」

否定できずに、私はうつ向くしかなかった。


「もう旅は終わったんだ。」

「うん……」

「もう……あの本に関わるなよ、紅葉。」

あの本に書かれていた事を、寝ている間、私が実際に経験していると知ってから、光清は気持ち悪がっていた。


「そうだね。光清の言うとおり。」

「紅葉……」

「あの本と同じように、二人はハッピーエンドを迎えたんだもの。それ以上、何を求めるってね。」

作り笑いを見せて、何とかこの状況を乗り越えようとしていた。

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