月夜の砂漠に紅葉ひとひらⅡ【完】

取り戻すモノは

その男は駱駝から降りると、私に“降りろ”とだけ指示して、どこかへ歩いて行く。

このままこの駱駝で、逃げてしまおうか。

「止せ。逃げても無駄だ。」

はい。

あっさり相手にも知られてました。

「いいからここからの眺めを見ろ。」

冷静になって周りを見てみると、切り立った崖の上に、私達はいるようだ。

仕方なく私は駱駝を降りて、その男の隣に、少し距離を置いて立った。

「うわぁ……」

そこには、砂漠の国の宮殿と、その前に広がる大きな森、その向こうには、地平線まで広がる砂漠が見えた。

「すごい……」

「ここは宮殿の裏側にあたる。この国を一望できる場所だ。」

私がちらっとその男を見ると、ずっと真っ直ぐに、眼下に広がる風景を見つめている。

「どうして……私をここに連れて来たんですか?」

「まあいい。あれを見ろ。」

さっきから命令口調ばかりの人だなと思いつつ、指を指された場所を見る。

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