【サク読みAI小説】独白アイドル〜幕が降りたあとで〜【アイドル×少年×短編】

第1話:Not anyone, but someone, more to say a KING

教室の窓から見える広い校庭では、サッカー部が掛け声を上げて走っていた。
俺は、エアコンの効いた名門校の教室で、プリントに名前を書いていた。

夏休みの補習授業は、
「特殊な理由」で課外授業を欠席した人間のために催される。

制服の上からでも目立つ脚の長さ。
整った華やかな顔。小さい頭。
朝の駅で携帯のカメラを向けられるのには、もう慣れた。

目立つルックスってのは、どこでも注目の的になる。
けど、カメラは向けられる理由はそれだけじゃない。

俺は——平沼一希は、中学生ながらにアイドルだった。

きっかけは、中学1年のときに名門アイドル事務所に履歴書を送ったこと。
結果は、拍子抜けするほどあっさり合格。

俺は晴れて、「名門中学の学生」という肩書きに、
「アイドル」という冠をつけることを許された。

ダンスも歌も未経験だったけど俺は飲み込みが早かった。
なんといっても、運動神経はあるし、記憶力は抜群。
未知の世界でも努力をすれば扉が開いて、
結果が出るのは当然だった。

スタジオの鏡の前で踊るたびに、周囲の視線が変わっていく。
それが気持ちよくて、
誰よりも早く振りを覚えて、誰よりも少年らしい笑顔を作るようになった。

「平沼くん、次の収録、来れる?」
「はい。行けます!」

先に入所したやつらを次々と追い越して、
バックポジションもテレビ出演も、ぜんぶ手にする。
前へ、前へと進んでいくのは、まるでイージーモードのゲームみたいだった。

ライブの裏側、ステージの袖、照明のまぶしさ。
他のやつが緊張で青ざめてるとき、俺だけは笑って立っていられた。

(だってお前ら、ぬるいんだもんなあ)

結果を出すまでの道筋を逆算して、着実に努力を積み重ねる。
苦手を打ち消すためには執拗に練習を繰り返し、
体づくりやルックスの調整などステージに出るまでの準備も怠らない。

もちろん、えらい大人たちや出世頭の先輩たちへのアピールも忘れちゃダメだ。

(頭使えば、分かりそうなもんだけど)

俺は昔、思っていた。
ここは腐っても名門アイドル事務所。
さぞかしエリート揃いなのだろうと。
けれど、実態は違った。

玉石混交といっても、とにかく石ころ側の人間の多いこと。

たとえば、才能もないのに、努力すらしないやつ。

「カズキ、なんでそんなに振り覚えるの早いんだよー。
やっぱ天才なん?」

(おまえらとは、やってる量が違うんだよ)

自惚れだけ一人前の甘ったれ。

「おまえさー、ほんと出たがりだよな。
そんなに必死こいて何がしたいわけ?」

(実力あってもアピんなきゃ埋もれるって、
アイドルのくせにわかんねえの?)

最悪なのは、頭も意識もゆるい、ただの素人。

「合コンこねぇって、ガチ?
もしかして本気でデビューとか目指してんの?」

(俺は遊びでここにいるんじゃない)

俺はそういう時、笑って流す。
だけどそのあと、決まってレッスン室の鏡を強くにらみつける。
鏡の中では、自分だけが前を見ているかのようだった。

前へ前へと出ていくうちに、
「平沼はブサイクなのにデビューを狙っている」のだと
陰で笑われるようにもなった。

でも、腹なんか立たなかった。
むしろ何もわかってないんだって、哀れに思えたくらいだ。

確かに、俺の見た目はアイドルとしては及第点。
ルックスだけでのしあがれるほどじゃない。

でも、アイドルに必要なのは総合力だ。
絶世のイケメンだけが成功する世界じゃない。
そんなこと、過去のアイドルを見ればわかることだろうが。

(まさに賢者は歴史に学ぶ、だ)
俺は内心ニヤリと笑った。

そう、平沼一希は、天才ではない。
けれど、強く賢い少年だったのだ。

得意分野を見つけたら、全力でアピールした。
理想のアイドル像を語り、行動で証明しようとした。

自分を見つめる女の子たちに、
「俺についてこい」と心の中で叫びながら踊る時間は、
何より快感だった。

そうして過ぎた3年間は、
まるで成功への階段が俺にだけ見えてるような時間だった。
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