【サク読みAI小説】独白アイドル〜幕が降りたあとで〜【アイドル×少年×短編】
再編成されたグループのどこにも、俺の名前はなかった。
新しいプロデューサーたちは、
俺を“デビュー候補”にすら入れなかったのだ。

(なんで、なんで、どうして!)

張り出された紙を見た瞬間、
さんざ鍛えたはずの表情筋はピクリとも動かなくなった。

そして、仲間が――元・仲間達が気遣わしげに俺を見る。
どういうことだよ、これ、と問いかけそうになって、
奴らの表情からは驚きだけが抜け落ちていることに気がついた。

悪い予感がする。

(もしかして、全部知っていたのか、お前らは)

ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!
俺だけが――。どうして――。

新しいプロデューサーは、何食わぬ顔で部屋を出ようとしている。

(ふざけるな!)

猛然と走り寄り、廊下の隅にプロデューサーを呼び止めた。

「……ッ!単刀直入に聞きます!
どうして、なんで俺だけ、外されたんですか?!」

プロデューサーは俺の剣幕に驚いて、
でもすぐに嫌な笑みを浮かべて言った。


「いやぁ……平沼くんは頑張り屋さんだからさ。
ここからまたゼロからでも頑張ってくれると思ったんだよね。
それに君、学歴もあるし、頭もいいし、
普通の世界でもやっていけるでしょお?」

それはつまり、
「君はもうアイドルじゃなくていい」ということだった。

一秒後には察した。
ああ、俺は切られたんだ。

事務所はスキャンダルでボロボロだ。
売れるかどうか分からないやつに、もう金は使えない。
だからまずは、“外で生きていけそうなやつ”から切る。

俺みたいなやつから、切っていく。

背中に汗がにじむ。
喉がカラカラに乾いて、言葉が出ない。
首を絞められているように息が苦しい。

(……努力って、意味あったか?)

これまで信じてきたものが、音を立てて崩れていく。
戦略を立てて、自分をプロデュースして、実績を積んできた。
それが逆に、自分を“放出枠”に押し込んだのか?

ずっとずっと信じてきた。

人生は自分で切り開けるものだと。
努力を積み重ねれば、必ず報われると。
意思を持って、行動し続けることが正解なのだと。
頭を使って試行錯誤を重ねることが、成功への道なのだと。

けれど、それらはすべてが裏目に出ている。

俺の“賢さ”や“強さ”は、ただ凡庸であり、
成長期のアイドルグループの穴埋め要因としては都合がよく、
事務所が転換期を迎えたら、
真っ先に外の世界への“放流対象”になるようなもの。

廊下で凍りつく俺の頭に、ふと、母の言葉がよぎる。

「カズキは強いもんね」

なつかしくてなつかしくて、でもずっと嫌いだった言葉。

兄妹の中でも不自然なほど出来が良く、
負けん気が強かった俺を見て、感心したようにそう呟いた。
そして手のかかる、でも“かわいい”兄や妹には、
もっと柔らかい視線を向けるのだった。

「平沼くんは賢いから、何も心配いらないわね」
学校の面談で、先生が言った。

「カズキはいいよなぁ、人生楽勝じゃん」
悩みを打ち明けようとしたとき、友達に軽く笑われた。

そんな言葉で、俺は何度も何度も後回しにされてきた。

泣き言を言う暇があったら、結果を出す。
弱音を吐くくらいなら、誰より先に立つ。

でもその強さは、最後に俺を見捨てるための理由になった。

ずっと、誰も助けてくれなかった。
褒めて、頼って、利用して――
最後に「外でもやれるから」で切られるなんて。

(…………どうして)
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