【サク読みAI小説】独白アイドル〜幕が降りたあとで〜【アイドル×少年×短編】
退所届を提出した夜、俺は友人の竜崎辰也をカラオケに呼び出した。
竜崎なのに、辰也。
冗談みたいな名前の男だが、
職業は意外とまともで、竜崎は俺たちの母校で教師をしている。
空気は読めないし、声はでかいしうるさいけど、
秘密だけは絶対に口外しない。そういう義理堅さがあった。
こいつとなら、まあ、友達を続けてやってもいいか──と、
上から目線で思っていた。
学生生活をないがしろにしていた俺にとって、
片手で数えるほどしかいない“ちゃんとした友達”のひとりだった。
部屋のドアが開いて、竜崎は入ってくるなり大声で話し始める。
「おまえ、こんなド平日に急に呼び出すなよなー!
ま、今日は部活休みだからいいんだけどさー!」
そのまま笑って俺の隣に腰を下ろす。
「で、どうしたんだ」
顔を向けてきたときには、もう目が真剣だった。
いつもどおり、察しがいい。
「……俺さ、事務所、やめたんだ」
喉が震え、声がみっともなくかすれた。
自分の声が耳に入って初めて、
自分が泣きたいのだと気づいた。
けれど、その直後。
「うっ……うわああああああん!!!」
目の前で、竜崎が号泣していた。
「……えっ」
(なんで、お前が泣くんだよ)
呆気に取られていると、竜崎は鼻をすすりながら、
すぐさま反論してきた。
「泣くだろそりゃあ!俺はな、生徒の引退試合でだって泣く男なんだぞ!」
「何を開き直ってんだよ……」
(単純男め)
でも、肩の力が抜けた。
するといったいどういう仕組みなのか、
自分の目からもぽろりと涙が落ちた。
俺はプライドが高い。
だから、友達の前で泣いたことなんて、なかった。
弱音を吐くくらいなら努力したし、
弱点があれば克服することだけを考えた。
だってアイドルは、時間との戦いだ。
少年はあっという間に大人になってしまうから、
輝くためには立ち止まっている暇なんてなかった。
(でも、もう……そんな必要ないんだな)
一度こぼれた涙は、止まってくれなかった。
竜崎は慌てて、おしぼりを俺の顔に押し当ててきた。
それを奪い取って、俺はひたすら泣いた。
竜崎は咳払いをしたり、ウーロン茶を飲んだり、
ストローの袋を結んだり――ひとしきりオロオロしてから、
覚悟を決めたようにどっかりと座り直す。
そして、そっと背中に手を添えてくる。
どうやら、慰めてくれるつもりらしい。
竜崎らしくないボソボソとしたまるで独り言のような声が、
俺の耳に届いた。
「……カズキ、おまえならさ、なんにだってなれるよ……
どこに行っても絶対うまくやれる。
今からだって、なんにだってなれるよ……」
違うんだ。
俺は、本当に本当にアイドルになりたかった。
がむしゃらに頑張ったのも、誰かを蹴落としてでも前に出ようとしたのも、
全部、“アイドル”になりたかったからなんだ。
学歴なんて、いらない。
人が羨むような育ちも欲しくない。
家族も、友達も、いらない。
エリートめいた完璧な人生も、
肩書きも地位も必要ない。
俺は、ただステージに立っていたかった。
自分だけの理想を語って、それをパフォーマンスで証明して、
「俺が」人を幸福にする。
誰かの人生の刹那を愛で満たしたかった。
どんなに日々が辛くても、
俺を見た瞬間に、生きていて良かったと思って欲しかった。
それは傲慢でもなんでもない。
それがアイドルが存在するただ一つの理由だと、
この10年で痛いほど理解していた。
どこへもゆかない。
もうどこへもゆけない。
ありあまる少年時代の夢はみんな粉々になってしまった。
いつの間にか背中をさする手が増えているような気がした。
ねぎらうように、励ますように、体温を分け与えてくれる。
これは一体、誰の手なんだろう。
竜崎なのに、辰也。
冗談みたいな名前の男だが、
職業は意外とまともで、竜崎は俺たちの母校で教師をしている。
空気は読めないし、声はでかいしうるさいけど、
秘密だけは絶対に口外しない。そういう義理堅さがあった。
こいつとなら、まあ、友達を続けてやってもいいか──と、
上から目線で思っていた。
学生生活をないがしろにしていた俺にとって、
片手で数えるほどしかいない“ちゃんとした友達”のひとりだった。
部屋のドアが開いて、竜崎は入ってくるなり大声で話し始める。
「おまえ、こんなド平日に急に呼び出すなよなー!
ま、今日は部活休みだからいいんだけどさー!」
そのまま笑って俺の隣に腰を下ろす。
「で、どうしたんだ」
顔を向けてきたときには、もう目が真剣だった。
いつもどおり、察しがいい。
「……俺さ、事務所、やめたんだ」
喉が震え、声がみっともなくかすれた。
自分の声が耳に入って初めて、
自分が泣きたいのだと気づいた。
けれど、その直後。
「うっ……うわああああああん!!!」
目の前で、竜崎が号泣していた。
「……えっ」
(なんで、お前が泣くんだよ)
呆気に取られていると、竜崎は鼻をすすりながら、
すぐさま反論してきた。
「泣くだろそりゃあ!俺はな、生徒の引退試合でだって泣く男なんだぞ!」
「何を開き直ってんだよ……」
(単純男め)
でも、肩の力が抜けた。
するといったいどういう仕組みなのか、
自分の目からもぽろりと涙が落ちた。
俺はプライドが高い。
だから、友達の前で泣いたことなんて、なかった。
弱音を吐くくらいなら努力したし、
弱点があれば克服することだけを考えた。
だってアイドルは、時間との戦いだ。
少年はあっという間に大人になってしまうから、
輝くためには立ち止まっている暇なんてなかった。
(でも、もう……そんな必要ないんだな)
一度こぼれた涙は、止まってくれなかった。
竜崎は慌てて、おしぼりを俺の顔に押し当ててきた。
それを奪い取って、俺はひたすら泣いた。
竜崎は咳払いをしたり、ウーロン茶を飲んだり、
ストローの袋を結んだり――ひとしきりオロオロしてから、
覚悟を決めたようにどっかりと座り直す。
そして、そっと背中に手を添えてくる。
どうやら、慰めてくれるつもりらしい。
竜崎らしくないボソボソとしたまるで独り言のような声が、
俺の耳に届いた。
「……カズキ、おまえならさ、なんにだってなれるよ……
どこに行っても絶対うまくやれる。
今からだって、なんにだってなれるよ……」
違うんだ。
俺は、本当に本当にアイドルになりたかった。
がむしゃらに頑張ったのも、誰かを蹴落としてでも前に出ようとしたのも、
全部、“アイドル”になりたかったからなんだ。
学歴なんて、いらない。
人が羨むような育ちも欲しくない。
家族も、友達も、いらない。
エリートめいた完璧な人生も、
肩書きも地位も必要ない。
俺は、ただステージに立っていたかった。
自分だけの理想を語って、それをパフォーマンスで証明して、
「俺が」人を幸福にする。
誰かの人生の刹那を愛で満たしたかった。
どんなに日々が辛くても、
俺を見た瞬間に、生きていて良かったと思って欲しかった。
それは傲慢でもなんでもない。
それがアイドルが存在するただ一つの理由だと、
この10年で痛いほど理解していた。
どこへもゆかない。
もうどこへもゆけない。
ありあまる少年時代の夢はみんな粉々になってしまった。
いつの間にか背中をさする手が増えているような気がした。
ねぎらうように、励ますように、体温を分け与えてくれる。
これは一体、誰の手なんだろう。