痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 気にはなる桃瀬だったが、目の前の仕事に追われていたらそれをうまく香苗に伝達することも出来ぬまま、予約時間通り百合は診察室へと導入されてしまった。

「詰め物は取れなかったですか?」

 エプロンを首にかけられながら香苗に問われる言葉にコクリと頷く百合。

「大丈夫です」

「痛みとかもないです?」

「大丈夫です」

「うまく合うといいですね」

「え?」

 百合が香苗の言葉に顔を上げる。

「先生上手だから。心配ないですよ」

「じょうず……」

「気になることがあったら何でも先生に聞いてくださいね?」

「……はい」

 若干不安そうな表情の百合を落ち着かせるためにも香苗は優しい声をかけた。それは治療への心構えをしてもらおうと思う歯科衛生士としての思いやりだった。それを百合がどう受け止めたかまでは把握せず診察室をあとにする。ひとり残された百合は考えていた。

(私と先生って合うのかな……どこに合う要素がある?)

 桃瀬の様に華やかな容姿はゼロ、愛想もゼロ。
 香苗の様に仕事のスキルが高いわけでもなく、気配りもさほど出来ない。
 冴子の様に女子力も高くなくなんなら低い、恋愛経験だってない。

 ――先生上手だから。

(なにが?)

 百合は思った。

(私にはうまくやれることなんかひとつもないけど!)
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