痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 涙は目元で滲み、まだうるうると波打つ瞳ではあるものの、とりあえず泣き止んだ百合。冴子の説得が続いている。

「大丈夫だよ。私の通ってる歯医者さんね、すっごく優しい先生だよ」

「……」

「穏やかで紳士!」

「……」

「カウンセリングも丁寧だし、スタッフの人もみんな気さくな明るい方ばかりよ? 当日予約でも快く受け入れてくれるし駅前で通うのにも便利じゃない?」

「……通いたくありません」

「じゃあどうするのぉ! そのまま穴が開いてまた虫歯できてもっと痛い思いして最後には歯を抜かないといけないかも……」

「冴子先輩っ! 脅かすのはやめてくださいっ!」

 結局百合はまた泣きだした。
 そのあとも落ち込み、まったく聞き入れようとしない百合をなんとか立ちあがらせて病院へ向かわせられたのは間違いなく冴子の手腕である。

「先生は保証する! 何がお勧めって先生だから! 大丈夫、先生に任せてひどいことにならないから!」

 冴子は何をそんなに力説するのだろう。あんな猟奇的趣味みたいな医者の何をそこまで……百合は心の底から疑い、怪し眼で冴子を見つめていた。お勧めする先生とやらを語る冴子はいつになく饒舌であった。まるで推し俳優を目の前に浮かべているかの如く、興奮したように語るのだから百合はますます胡散臭い……と本音は思っていた。
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